ヘルマン・オルデンベルク

ヘルマン・オルデンベルク：西洋における仏教研究の礎を築いたインド学者

ヘルマン・オルデンベルク（1854年 - 1920年）は、ドイツ出身の卓越したインド学者です。彼はヴェーダ文献とパーリ仏典の研究において世界的な名声を博し、西洋における学術的な仏教研究の黎明期を担った重要な人物の一人として広く認識されています。オルデンベルクの研究は、現代の仏教研究の基礎を築いたと言えるほどの影響力を持っています。

学歴とキャリア

オルデンベルクは1854年、ドイツのハンブルクに生まれました。ゲッティンゲン大学とベルリン大学で、文献学とインド学を専攻し、高度な専門知識を習得しました。1878年にはベルリン大学でサンスクリット文献学の講師として教鞭をとり、1889年にはキール大学教授の地位に就きます。そして1908年には、ゲッティンゲン大学に移り、生涯の終わりまで同大学で教鞭をとり続けました。

主要な業績

オルデンベルクの研究活動は多岐に渡り、その業績は膨大です。彼はパーリ聖典協会に参画し、パーリ仏典の一部を校訂、出版するという重要な役割を果たしました。その中には『ディーパワンサ』（古代仏教の歴史記録）や『律蔵』（仏教の規律をまとめた経典）といった重要な文献が含まれています。

さらに、彼はフリードリヒ・マックス・ミュラーの主導する『東方聖典叢書』において、パーリ仏典、グリヒヤスートラ（家事に関するヴェーダ文献）、そしてヴェーダの讃歌といった重要な文献の英訳にも携わりました。これらの翻訳は、西洋におけるインド学研究に大きな貢献を果たしました。

オルデンベルクの最も重要な業績の一つとして、『仏陀：その生涯、教え、そして教団』があげられます。この著作は、パーリ仏典に基づいた仏陀の生涯と教えを詳細に解説しており、仏教研究における重要な入門書として、日本語をはじめ多くの言語に翻訳され、現在も多くの人に読まれています。

彼はまた、仏教思想の源流をウパニシャッドに求めるという、重要な洞察を示しました。彼の著書『ウパニシャッドの教えと仏教の起源』は、このテーマを深く掘り下げたものであり、仏教とヒンドゥー教思想の関係を理解する上で極めて重要な著作です。

さらに、ヴェーダ研究にも貢献し、『ヴェーダの宗教』は英語やフランス語にも翻訳されています。この著作は、ヴェーダ時代の宗教観や社会構造を理解する上で欠かせない参考文献となっています。彼はリグヴェーダのテキスト批判にも取り組んでおり、その研究は現代のヴェーダ研究にも影響を与えています。

研究への評価と批判

オルデンベルクはパーリ仏典を最も古い仏典として高く評価しましたが、パーリ仏典にも後世の改変が含まれているという指摘もあります。これはオルデンベルクの研究に対する批判の一つです。しかし、彼の業績が仏教研究全体に与えた影響は非常に大きく、現代の研究者たちも彼の仕事に深く敬意を払っています。彼の研究は、多角的な視点から仏教を理解する上で重要な足がかりとなっています。

オルデンベルクの研究は、彼の死後もなお、世界中の研究者たちによって引き継がれ、発展し続けています。彼の貢献は、西洋におけるインド学、特に仏教研究の確立に不可欠であり、現代の私たちが仏教を理解する上で非常に重要な役割を果たしています。

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