ヘルメット (ドイツ軍)

ドイツ軍のヘルメットは、20世紀以降のドイツ軍の兵士を象徴する重要な装備品である。中でも特に知られているのは、第一次世界大戦頃まで用いられた革製の「ピッケルハウベ」と、その後に登場し第二次世界大戦を経て広く普及した鋼鉄製の「シュタールヘルム」だ。これらのヘルメットは、単なる防具としてだけでなく、「ドイツ兵」あるいは「ドイツ軍」をイメージする際に真っ先に思い浮かべられるアイコンとなっている。他国では、これらの名称がドイツ語の原語そのままに、特定の形状のドイツ軍ヘルメットを指す固有名詞として定着している場合も多い。

変遷 - ピッケルハウベからシュタールヘルムへ

帝政ドイツ時代の陸軍は、建国以来「ピッケルハウベ」を標準的なヘルメットとして採用していた。これは革製で、頭頂部に金属製のスパイクが付いているのが特徴である。第一次世界大戦が始まると、兵士たちは所属部隊の番号が入った布製カバーをヘルメットに被せていたが、近代戦、特に塹壕戦においては、革製のピッケルハウベの防御力不足が露呈する。砲弾の破片から頭部を守るには脆弱であり、また頭頂部のスパイクは遠距離からも目立つため、狙撃の標的になりやすいという致命的な欠点があった。こうした戦場の現実に対応するため、ドイツ帝国軍は新たな鋼鉄製ヘルメットの開発を急ぎ、1916年に「シュタールヘルム」が完成した。「シュタールヘルム」とはドイツ語で「鋼鉄の兜」を意味し、鋼製の軍用ヘルメット全般を指す言葉でもある。完成と同時に、旧来のピッケルハウベは急速にシュタールヘルムへと置き換えられていった。

シュタールヘルムの進化（第一次世界大戦〜第二次世界大戦）

1916年型シュタールヘルムは、その独特の形状、すなわち深く張り出したひさしと、後頭部まで覆うえり回しが特徴だった。この形状は、うなじを効果的に保護するとともに、熱中症の予防にも役立ったと言われている。その外見から「石炭バケツ」とも揶揄されたが、その実用性から類似形状のヘルメットが後の他国でも採用されることになる。1916年型に続き、1918年には無線や電話の受話器を耳に当てやすくするために、ヘルメットの縁の両側面に半円形の切り欠きが追加された1918年型が登場した。また、同じ1918年には単色だったヘルメットへの迷彩塗装が指令され、戦場での視認性を低下させる努力が始まった。

第一次世界大戦後、ドイツの国軍においてピッケルハウベは正式装備から姿を消し、シュタールヘルム型が標準となった。1933年のナチス政権誕生を経て、1935年の再軍備宣言以降、国防軍および武装親衛隊でも引き続き採用された。1935年に採用されたM35鉄帽は、第一次大戦型に比べてひさしやえり回りを中心に若干小型化・軽量化されており、これが第二次世界大戦中のドイツ軍ヘルメットの基本形となった。M35型では空気穴がヘルメット本体とは別のパーツだったが、1940年型（M40）からはプレス加工によって一体化された。さらに、材質もモリブデン鋼からマンガン・シリコン鋼に変更されている。1942年7月には製造工程のさらなる簡略化が図られ、ヘルメットの縁を内側に折り曲げていた処理が廃止され、外側に少し反らせるだけの1942年型（M42）が生産された。

また、標準型とは別に、1938年には降下猟兵向けのヘルメットが開発された。これは降下作戦時に吊索などに引っかかるリスクを減らすため、ひさしと側・後部のすそを切り詰めた形状をしており、あご紐も帽体と3点で連結することで、激しい動きでもヘルメットが動揺しにくいように工夫されていた。戦争が後半に入り、特に生産能力が低下した末期には、各種装備の簡略化が進められた。ヘルメットも例外ではなく、1944年頃には、従来のシュタールヘルムのような頭頂部からひさしへの屈曲部をなくし、全体として平らな円錐形に近い形状のヘルメットが開発された。この新型は加工工程が少なく、避弾経始も優れていたとされるが、正式には採用されなかった。しかし、この形状が後に東ドイツ軍で採用されたヘルメットに影響を与えたという説もある。

国防軍（陸軍、海軍、空軍）や武装親衛隊のヘルメットには、所属を示すデカールが貼付されていた。陸軍は左側に陸軍鷲章、右側に国家色（黒・白・赤）。海軍は左側に金色の海軍鷲章。空軍は左側に空軍鷲章。武装親衛隊は左側にナチ党旗（ハーケンクロイツ）、右側にSSルーン文字。しかし、これらのデカールは戦場で目立ち、迷彩効果を損なうため、国家色とナチ党旗のデカールは1940年3月に、鷲章とSSルーン文字のデカールは1943年8月に廃止された。

第二次世界大戦後のドイツ

敗戦後、西ドイツで再建されたドイツ連邦軍は、ナチス時代の国防軍との連続性を断ち切るため、当初はアメリカ製のM1ヘルメットを採用した。1956年にはM1をベースに、内装をヘルメット本体に直接取り付けるシュタールヘルム式の構造を組み合わせたM56型を導入した。これは米独折衷と言える設計だった。1980年代以降、アメリカ軍がシュタールヘルムに似た形状のPASGTヘルメット（通称「フリッツヘルメット」）を採用し、世界的にこの形状が普及したが、ドイツ連邦軍はナチス時代を連想させるとして採用に慎重だった。しかし、東西ドイツ統一を経て1990年代に入ると、連邦軍もようやく同タイプの形状を持つアラミド繊維製ヘルメット「Gefechtshelm M92」（92式戦闘用ヘルメット）を採用した。製造はドイツとスペインの企業が行ったが、後にスペイン企業製の製品で内装固定ボルトの強度が不足している問題が発覚し、大規模な改修が行われた。

一方、西ドイツ国内では、連邦国境警備隊や消防、民間の防空組織など、一部の機関ではシュタールヘルム型のヘルメットがその後も使用され続けた。連邦警察の特殊部隊GSG-9では、第二次大戦中の降下猟兵用ヘルメットに似た形状のヘルメットが用いられた。

対照的に、東ドイツの国家人民軍は西ドイツ連邦軍よりも国防軍の様式を強く引き継いでいた。国家人民軍が制式採用したM56ヘルメットは、第二次世界大戦末期に開発されたものの未採用に終わった国防軍の新型シュタールヘルムを基にしているとされる。このヘルメットは側面が緩やかな山型に傾斜しており、避弾経始に優れる反面、着用者の頭に完全にフィットせず、少し浮いたような形になった。このため、塹壕への飛び込みなど激しい動きをした際にヘルメットの縁が引っ掛かりやすく、首を負傷する危険性があった。対策として、ヘルメット本体と内装を結合する樹脂ピンに安全装置が設けられ、強い力が加わるとピンが外れて本体と内装が分離するよう設計されていた。分離しても簡単に再組み立てが可能だった。

国際的な影響と使用例

ドイツ軍のヘルメット、特にシュタールヘルムはその独特の形状と実用性から、各国に影響を与えたり、直接供給されたりした。第一次世界大戦以前から、ドイツ陸軍を模範とした南米諸国ではピッケルハウベに続きシュタールヘルム型が採用された。第一次世界大戦時には同盟国であるオーストリア＝ハンガリー帝国、オスマン帝国、ブルガリアでもシュタールヘルム型が導入され、戦後の後継国家でも使用が続いた。大戦間期から第二次世界大戦にかけては、フィンランド（ドイツ供給）、ラトビア、エストニア、リトアニア（対ロシア差別化）、アフガニスタン、中華民国（中独合作）、スペイン（内戦）など、多くの国でドイツ式のヘルメットが採用されたり、その影響を受けた設計が用いられた。戦中の日本では、民間の防空用としてシュタールヘルムに類似した形状の鉄帽が販売された例もある。第二次世界大戦後、ドイツの敗戦とナチスの負のイメージから、シュタールヘルム型を軍用装備として使用する国は激減した。しかし、オーストリア、フィンランド、スペイン、アルゼンチンなど一部の国では、1950年代から1970年代頃まで実戦装備や礼装用として用いられていた。現在でも、南米のチリやボリビアでは、ピッケルハウベと共にシュタールヘルム型が軍の礼装用として残っている。また、東ドイツの国家人民軍で使われたM56ヘルメットは、ベトナム、キューバ、ニカラグア、アンゴラといった国々にも輸出された。日本の消防隊が現在使用する消火ヘルメットにも、シュタールヘルム型を原型にフランスのアドリアンヘルメット風の鶏冠を追加したデザインが見られる。

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