ヘンリー・トレシャム

ヘンリー・トレシャム（Henry Tresham RA、1751年頃 – 1814年6月17日）は、アイルランドで生まれ、歴史画家として18世紀後半の美術界で重要な役割を果たしました。彼は主にローマとロンドンで活動し、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ（王立美術院）の教授も務めました。

生涯

トレシャムはダブリンで生まれ、王立ダブリン協会が後援する美術学校でW. Ennisに師事しました。1775年にロンドンへ移住しましたが、その後15年間は主にローマで過ごしました。ローマ滞在中には、同じくイギリス人画家であるトーマス・ジョーンズや、画家で美術商のギャヴィン・ハミルトン、トーマス・ジェンキンスらと親交を深めました。

当時のイタリアでは、多くのイギリス人画家が美術品の仲介業を行っていましたが、トレシャムもその一人として、ブリストル伯爵やコーダー男爵といったイギリスの美術収集家のために、イタリア美術品を仲介する仕事をしていました。特に、彫刻家のアントニオ・カノーヴァとコーダー男爵の仲介役を務めたことで知られています。カノーヴァはコーダー男爵の依頼により彫刻作品を制作し、その作品は現在、ヴィクトリア&アルバート博物館に収蔵されています。

1788年にイギリスに帰国したトレシャムは、当時人気を博していたヘンリー・フュースリー（ヨハン・ハインリヒ・フュースリー）のスタイルに影響を受けた歴史画の大作を描き、高い評価を得ました。1791年にはロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの準会員に選出され、1799年には正会員に選ばれました。

アカデミーの運営にも積極的に関与し、正会員選出後には、評議員の選出方法が規約に沿っていないとして異議を唱え、評議員の交代制を復活させました。また、1807年から1809年の間は、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの教授として後進の指導にもあたりました。

その他の活動

トレシャムは、出版社のロバート・ボイヤーが企画したイギリスの歴史物語の挿絵制作プロジェクトや、ジョン・ボイデルによる「ボイデル・シェイクスピア・ギャラリー」の事業にも参加しました。また、トーマス・マクリンが手掛けた豪華版の挿絵入り聖書の制作にも協力するなど、出版業界とも関わりを持ちました。

ヘンリー・トレシャムは、画家としてだけでなく、美術品の仲介、アカデミーの運営、出版事業への参加など、多岐にわたる活動を通じて、18世紀後半のイギリス美術界に大きな影響を与えた人物と言えるでしょう。

参考文献

Hodgson, J. E.; Eaton, Frederick A. (1905). The Royal Academy and its Members 1768-1830. London: John Murray.
Walch, Peter. "Henry Tresham." Grove Dictionary of Art. Ed. Jane Turner. London; New York: Grove/Macmillan, 1996. ISBN 1-884446-00-0.
Webb, Alfred (1878). "Tresham, Henry." A Compendium of Irish Biography. Dublin: M. H. Gill & son – via Wikisource.
A Dictionary of British and Irish Travellers in Italy, 1701-1800, Compiled from the Brinsley Ford Archive by John Ingamells (1997)
* Dudgeon, Camphill. Henry Tresham (DNB, volume 57, 1899) pp. 202–203.

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