ベアリングス銀行

ベアリングス銀行：栄光と破綻の歴史

ベアリングス銀行は、1762年、フランシス・ベアリングによってロンドンで設立された、歴史ある英国の投資[[銀行]]です。その名は「女王陛下の銀行」と称されるほど、長く高い名声を保ってきました。しかし、233年の歴史に幕を閉じたその最期は、現代金融史における教訓として今も語り継がれています。

隆盛期：大英帝国と歩む

当初はマーチャント・バンクとして、大英帝国の拡大とともに発展を遂げました。貿易商の手形引受で業績を伸ばし、18世紀末にはロンドンの有力な引受業者へと成長。ベアリング家による同族経営のもと、アメリカ合衆国建国にも深く関与し、ルイジアナ買収の際のアメリカ政府債の発行を支援するなど、国際金融の中枢を担いました。

ナポレオン戦争期にはイギリス戦時公債の最大の引受会社となり、戦後もフランスの賠償金公債の引受を行うなど、巨額の資金を扱うようになりました。当時、リシュリュー公爵は「ヨーロッパには6つの強国がある。イギリス、フランス、プロイセン、オーストリア、ロシア、そしてベアリング・ブラザーズだ」と評したと言われるほど、その影響力は絶大でした。

19世紀に入ると、アメリカへの進出を加速。アメリカ人銀行家ジョシュア・ベイツのパートナー就任を機に、テキサス、ニューメキシコ、カリフォルニアのメキシコからの買収にも関与しました。また、ナポレオン3世やベルギー国王レオポルド1世など、ヨーロッパの有力者からの預金も預かり、その影響力をさらに拡大しました。

19世紀中頃には、積極的な投資戦略（自己勘定取引）を開始。イギリス、ロシア、オーストリアの株式やパナマ運河の債権、アメリカ鉄道株などに投資し、莫大な富を築きました。1860年から1890年までにアメリカとカナダへの融資額は5億ドルに達し、N・M・ロスチャイルド&サンズと並ぶ英国マーチャントバンク界の双璧となりました。世紀末には英国王室御用達となり、「女王陛下の銀行」と称されるまでになりました。

しかし、1890年のアルゼンチン革命による巨額損失を機に、イングランド[[銀行]]からの救済を受け、株式会社に転換。ベアリング家による支配は続きますが、体制は変化しました。

20世紀：時代の変化と破綻

20世紀に入ると、世界大戦によるイギリスの国際的地位低下、ポンド安、ロンドンでの外債発行減など、逆風に見舞われます。戦後には、投資顧問業や資産管理、企業の合併買収などに事業を多角化し、1980年代の金融ビッグバン後はトレーディングに特化した投資[[銀行]]へと変貌を遂げました。日本株バブルでの成功もありましたが、バブル崩壊による打撃も受けました。

1995年、シンガポール支店に勤務していたニック・リーソンによるデリバティブ取引の失敗が、ベアリングス銀行の破綻という悲劇を招きます。リーソンの不正取引による損失は、銀行の自己資本をはるかに超える約1,380億円に達し、233年の歴史を持つ名門銀行は倒産しました。

INGグループに1ポンドで買収されましたが、INGは巨額の残債を肩代わりせざるを得ませんでした。その後、ベアリングス銀行は解体され、その歴史に終止符が打たれました。

教訓：金融リスクと内部統制

ベアリングス銀行の破綻は、デリバティブ取引のリスク、内部統制の脆弱性、そして時代の変化への対応の遅れといった現代金融史における重要な教訓を与えてくれます。この事件は、数々の書籍や映画の題材となり、現代金融リスク管理の重要性を改めて認識させるものです。また、同時期に起きた大和[[銀行]]ニューヨーク支店巨額損失事件と比較検討することで、企業リスク管理の普遍的な課題が見えてくるでしょう。

参考文献

スティーブン・フェイ 著、宇佐美洋 訳『ベアリングズ崩壊の真実』時事通信社、1997年
ニック・リーソン 著、戸田浩之 訳『私がベアリングス銀行をつぶした』新潮社、1997年

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