ベクスヒル＝オン＝シー

ベクスヒル＝オン＝シーは、イングランドのイースト・サセックス州に位置する、イギリス海峡に面したタウンです。

歴史の始まり

この地が歴史記録に初めて現れるのは、772年にマーシア王オファが発行した勅許状においてです。この文書には、771年に王がヘイスティングスの人々を破り、その記念としてベクスヒルに教会を設立したことが記されています。当時の「ヘイスティングス」という呼称は、現在のタウンだけでなく周辺地域を含む広範なエリアを指していたと考えられています。

1066年のノルマン・コンクエストの際、ベクスヒルは激しい破壊に見舞われました。1086年に編纂されたドゥームズデイ・ブックには、征服以前は20ポンドの価値があったこの地の荘園が荒廃し、その価値が大幅に下落した様子が記録されています。

荘園の変遷と発展

ノルマン征服後、ウィリアム1世はこのヘイスティングスとベクスヒルの荘園をユー伯ロバートに与えました。その後、1148年にはロバートの孫であるユー伯ジョンによって荘園はチチェスター司教に返還されました。この司教による所有期間に、荘園内に初めて建造物が建てられた可能性が指摘されています。1250年頃には、後に聖人となるチチェスター司教リチャードによって、現在もその痕跡が残る庭園が整備されたほか、当地にあるセント・リチャード・カトリック・カレッジの起源もこの司教の業績に繋がるとされています。司教は敷地の東端に邸宅を所有し、司教区東部の視察や自身の旅路における滞在先として利用していました。この時代、チチェスター司教とバトル・アビー修道院長との間で、土地の権利を巡る争いが頻繁に発生していました。

1276年には、ベクスヒルの大部分が狩猟地として指定され、1447年にはアダム・ド・モリーンズ司教が自身の邸宅を要塞化するための許可を得ています。その後、1561年にエリザベス1世の手に渡り、3年後にはドーセット伯トーマス・サックヴィル卿に譲渡されました。ドーセット伯爵家（後に公爵家）は、19世紀半ばまでこの地を所有し続けます。

1804年には、ナポレオン率いるフランス軍から逃れてきたドイツ王国のハノーヴァー人兵士たちが、ベクスヒルの兵舎に駐屯しました。彼らはハノーヴァー選帝侯を兼ねていたジョージ3世によって歓迎され、イギリス軍と共にフランスと戦いました。当時、南東海岸沿いには防御のための塔が建設されており、ベクスヒルの近くにも建てられています。ドイツ兵たちは1814年に当地を離れ、翌年のワーテルローの戦いにも参加しました。興味深いことに、同時期、地元の人々はフランスとの間で積極的に密輸を行っていたと伝えられています。

デ・ラ・ウェア伯爵家によるリゾート開発

1813年、ドーセット公爵家のエリザベスが第5代デ・ラ・ウェア伯爵と結婚したことが、ベクスヒルの運命を大きく変える転機となります。1865年にドーセット公爵家の男系が断絶すると、デ・ラ・ウェア伯爵夫妻がベクスヒルの土地を相続しました。

かつては小さな田舎の村に過ぎなかったベクスヒルを、海辺の高級リゾート地へと変貌させる構想を抱いたのは、第7代デ・ラ・ウェア伯爵でした。彼は建築家ジョン・ウェッブと契約し、最初の防波堤を築き、海岸通りのデ・ラ・ウェア・パレードを整備しました。ウェッブは自身の仕事の報酬の一部として、鉄道南側の広大な土地を得ています。1890年に開業したサックビル・ホテルは、元々第7代伯爵のために建てられ、当初は家族用の住居も併設されていました。1891年には、長男のカンテループ子爵が地元の名家ブラッシー家の娘、ミュリエルと結婚。荘園は大規模に改修され、子爵夫妻は当地の領主として優雅な生活を送りました。最終的に、第7代伯爵はベクスヒルの領地管理権をカンテループ子爵に譲渡しています。

第8代デ・ラ・ウェア伯爵となったカンテループ子爵は、リゾートとしての魅力を高めるための施設開発に力を入れました。エンターテイメントとリラクゼーションを目的とした「クルサール」の建設計画や、デ・ラ・ウェア・パレード東端への自転車競技場とサイクルシャレーの建設などが進められました。これらの設備は、新しいリゾート地を国内外にアピールするための目玉となりました。また、ベクスヒルは健康に良い土地として評判になり、多くのインデペンデント・スクールが集まるようになります。

鉄道網の発達もリゾート化を後押ししました。ベクスヒルに最初の駅が開業したのは1846年で、現在のセインズベリー駐車場付近、丘の上の村からは離れた場所でした。リゾート地の成長に伴い、1891年により便利な場所に新しい駅が建設され、さらに1902年には現在の駅舎が開業するとともに、クロウハースト線のためにベクスヒル・ウェスト駅も開業しました。

1902年は、ベクスヒルがバラ（Borough）に昇格した記念すべき年でもありました。これはサセックス州のタウンとしては最後の法人化でしたが、英国王室からの勅許状が初めて自動車で配達されたという珍しいエピソードも残っています。同年5月には、バラ昇格とリゾートの宣伝を兼ねて、国内初のカーレースがデ・ラ・ウェア・パレードで開催され、大きな話題となりました。

同時期、町の話題の中心は第8代デ・ラ・ウェア伯爵の離婚騒動でした。妻ミュリエルは夫の不貞行為と育児放棄を理由に訴訟を起こし、3人の子供たちの親権を獲得して離婚が成立。彼女は子供たち（マイラ、エイビス、ハーブランド）と共に実家に戻りました。第8代伯爵は再婚するも再び不倫で離婚するなど、私生活でのトラブルが絶えませんでした。経済的な問題もたびたび発生し、世間の注目を集めました。1914年に第一次世界大戦が始まると、伯爵は英国海軍に入隊しますが、翌年イタリアのメッシーナで熱病にかかり死去しました。

第8代伯爵の死去を受けて、息子のハーブランドが第9代デ・ラ・ウェア伯爵を継承しました。彼は1935年に完成したデ・ラ・ウェア・パビリオンの建設事業で特に知られています。また、社会主義者として初めてベクスヒル市長に就任するなど、革新的な一面も持ち合わせていました。彼は1976年に生涯を終えました。

戦後の変化

第二次世界大戦が始まると、イギリス海峡に面するベクスヒルは度重なる空襲に見舞われ、多くの学校が一時的に疎開を余儀なくされました。終戦後、多くの学校はベクスヒルに戻ってきましたが、その数は徐々に減少傾向をたどります。これは、多くの学校がかつて植民地政府関係者や海外駐留軍人の子女を主な対象としていたため、大英帝国の崩壊や1947年のインド独立といった歴史的な変化が学校数の減少を加速させた側面が大きいとされています。

主な出身人物

ヒュー・ウィリアムズ (俳優)
ルース・ギップス (作曲家、指揮者)

もう一度検索