ベッティーノ・クラクシ

ベッティーノ・クラクシ（1934年 2月24日 - 2000年 1月19日）は、イタリアの重要な政治家の一人であり、同国の首相（閣僚評議会議長）やイタリア社会党書記長を歴任しました。

ミラノで生まれ、反ファシスト運動に関わった弁護士を父に持つ家庭で育ったクラクシは、早くからイタリア社会党の学生組織で才能を示し、1968年の初当選を機に国政の舞台へ進出します。

若くしてドイツのヴィリー・ブラント、フランスのフランソワ・ミッテラン、スペインのフェリペ・ゴンザレス、ギリシャのアンドレアス・パパンドレウといった各国の主要な社会主義・社会民主主義政治家と親交を結び、この国際的なネットワークは後の政権運営や外交に重要な役割を果たしました。

党内での昇進も早く、1957年には副書記に就任。1976年にはイタリア社会党の書記長に選ばれ、党のかじ取りを任されることになりました。メディアが急速に普及し始めた時代において、クラクシはその巧みな弁舌と洗練された容姿で国民に強くアピールします。経済発展とともに増大したホワイトカラー層などの新中間層に支持を広げ、社会党を従来の労働者中心の政党から脱却させる改革を進めました。

彼は社会党を率いて積極的な政治攻勢を展開。政権連合からイタリア共産党を遠ざけ、与党内の左翼勢力における社会党の存在感を再び高めました。同時に、長年政権の中核を担ってきたキリスト教民主党にとって不可欠な連立パートナーとしての社会党の地位を確立。10％に満たない得票率にもかかわらず、それ以上の政治的影響力を行使しようとしたのです。

こうした党勢拡大の成果として、1983年、社会党から初めてとなる首相の座に就きました。

クラクシ政権とその功績

彼の内閣は、キリスト教民主党、社会党、社会民主党、共和党、自由党の五党からなる「ペンタパルティート（五党連合）」と呼ばれる強力な連立政権でした。この連立には、首相であるクラクシ自身に加え、副首相にアルナルド・フォルラーニ（キリスト教民主党）、外相にジュリオ・アンドレオッティ（キリスト教民主党）、国防相にジョヴァンニ・スパドリーニ（共和党）など、各党の有力政治家が名を連ねました。

政権は経済改革を最優先課題とし、特にインフレーションの一因とされていた賃金の物価スライド制（スカラ・モビーレ）の廃止などを断行。長らく続いた経済の停滞からの脱却と成長の実現を目指しました。実際、彼の在任期間中にイタリア経済は比較的堅調な推移を見せました。

さらに、国家とローマ教皇庁との間の協定であるコンコルダート（政教和約）を改訂したことも特筆されます。この改訂により、国家と教会との相互不干渉の原則を確認しつつ、カトリックがイタリアの国教であるという規定を削除するなど、国家の世俗化を推進しました。

外交面では、欧州統合の推進に積極的に関与し、後の1992年に締結されるマーストリヒト条約への道筋をつけるなど、欧州におけるイタリアの発言力強化にも貢献しました。

クラクシは1983年 8月4日から1987年 4月18日まで、約4年間にわたり首相の座に留まりました。これは当時の戦後イタリアにおいて、アルチーデ・デ・ガスペリに次ぐ長期政権であり、彼の政治手腕と強力なリーダーシップを示すものでした（この記録は後にシルヴィオ・ベルルスコーニによって更新されることになる）。

失脚と国外逃亡

しかし、1990年代に入ると、「タンジェントポリ（汚職都市）」と呼ばれる大規模な汚職摘発運動がイタリア全土を揺るがし、既成政治家に対する国民の不信感が爆発しました。クラクシ自身も複数の汚職事件への関与を疑われ、捜査対象となりました。

司法当局からの追求を逃れるため、彼はチュニジアへ逃亡。結局、イタリアへ帰国することなく、2000年 1月19日にチュニジアのハンマメットで心臓発作により客死しました。

ベッティーノ・クラクシは、イタリア社会党を改革し、戦後イタリアで最も長く政権を担った首相の一人として、経済や外交で成果を上げた一方で、その晩年は汚職疑惑と国外逃亡という形で幕を閉じました。イタリア現代史において、光と影の両面を持つ複雑な政治家として記憶されています。

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