ベニー・ムルダニ

ベニー・ムルダニ：インドネシアの激動期を駆け抜けた軍人

レオナルドゥス・ベンヤミン・ムルダニ、通称ベニー・ムルダニ（1932年10月2日 - 2004年8月29日）は、インドネシアの陸軍大将であり、情報将校、そして国軍司令官として、その生涯をインドネシアの社会・政治に深く刻み込みました。

生い立ちと愛国心の芽生え

ムルダニは1932年、中部ジャワ州のチェプで、鉄道員の父とドイツ系の血を引く母の間に生まれました。1945年8月18日のインドネシア独立宣言後、ムルダニは13歳にして日本軍憲兵隊本部の襲撃に加わるなど、早くからナショナリズムに目覚めました。その後、インドネシアの独立戦争に身を投じ、ソロ大攻勢にも参加しました。

軍人としてのキャリア

独立後、学業を終えたムルダニは、陸軍将校養成センターを経て、1954年に西ジャワ地区の治安部隊に配属されました。ダルル・イスラーム運動に対抗するための特殊部隊の創設に携わった後、陸軍空挺連隊（RPKAD）の中隊指揮官に任命され、スマトラやスラウェシでの分離主義運動鎮圧作戦に参加しました。

1960年代には、アメリカの陸軍歩兵学校で教育を受け、帰国後は西イリアン奪還作戦に従事。その後、マレーシア対決の一環としてボルネオに派遣されました。

情報将校としての頭角

RPKADからKOSTRAD（陸軍戦略予備軍）に異動後、アリ・ムルトポに見出され、情報担当の任務に就きました。マレーシアとの和平交渉を秘密裏に進めるなど、情報将校としての才能を開花させました。その後、マレーシアや韓国での外交官生活を経て、1974年に帰国すると、国家情報調整庁（Bakin）副長官など、数々の要職を歴任し、情報機関を統括する立場となりました。

1975年の東ティモール問題では、情報工作や軍事介入作戦を主導しました。1981年のガルーダ航空206便ハイジャック事件では、特殊部隊を率いて人質救出作戦を成功させました。

国軍司令官として

1983年、ムルダニは国軍司令官に就任し、陸軍大将に昇進。大胆な国軍機構改革を推進し、軍の効率化とプロフェッショナリズムの向上を目指しました。しかし、1984年のタンジュンプリオク事件での強硬な鎮圧指示は、物議を醸しました。

スハルトとの軋轢と失脚

ムルダニはスハルト大統領に忠誠を誓っていましたが、体制内の汚職やネポティズムを批判したため、スハルトの警戒を招き、1988年に国軍司令官を解任されました。その後、国防・治安大臣に任命されましたが、以前ほどの権力は持っていませんでした。

カトリック教徒としての側面

ムスリムが多数を占めるインドネシアにおいて、ムルダニはカトリック教徒の指導者としても重要な役割を果たしました。その信仰は、彼の行動や決断にも影響を与えたと言われています。

死去

2004年8月29日、脳梗塞のためジャカルタで死去。71年の生涯を閉じました。

ベニー・ムルダニは、その大胆な行動力と決断力で、インドネシアの社会・政治に大きな影響を与えた人物でした。しかし、その強大な権力は、スハルト大統領との軋轢を生み、最終的には失脚へと繋がりました。ムスリム人口が圧倒的多数を占めるインドネシアにおいて、カトリック教徒の指導者としても重要な足跡を残しました。

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