ベネディクトゥス13世 (対立教皇)

ベネディクトゥス13世：教会大分裂を彩った対立教皇の生涯

ベネディクトゥス13世（1328年-1423年）は、14世紀後半から15世紀前半にかけて続いたカトリック教会の教会大分裂において、対立教皇として知られる重要な人物です。本名ペドロ・マルティネス・デ・ルナ、アラゴン王国の大貴族ルナ家出身で、アラゴンではエル・パパ・ルナと呼ばれていました。

ベネディクトゥス13世は、アラゴン王国イリュエカで生まれ、モンペリエ大学で教会法を学び、教授を務めました。その後、グレゴリウス11世に仕え、1375年には枢機卿に叙任されています。1378年、教皇選挙コンクラーヴェに出席した彼は、当初ウルバヌス6世を支持していましたが、ウルバヌス6世の横暴な姿勢に失望し、教会大分裂が始まると、対立教皇クレメンス7世を支持してアヴィニョンに残りました。

クレメンス7世の下で教皇使節を務め、アラゴンとカスティーリャ王国を味方につけ、聖人となるビセンテ・フェレールと共に支持者獲得に尽力しました。1394年、クレメンス7世の死後、アヴィニョンで行われたコンクラーヴェで、ベネディクトゥス13世は対立教皇に選出されます。ローマとの合一を誓約し、ローマ教皇ボニファティウス9世、インノケンティウス7世、グレゴリウス12世と交渉を試みましたが、全て失敗に終わりました。

フランス王シャルル6世の支持を失ったベネディクトゥス13世は、1398年にはフランス軍のアヴィニョン占領により、教皇宮殿に5年以上も立てこもる事態に陥ります。1403年、アヴィニョンから脱出、アラゴン王マルティン1世の庇護を受け、ペルピニャンを拠点とせざるを得ませんでした。

1409年のピサ教会会議では、ベネディクトゥス13世とグレゴリウス12世の廃位と、アレクサンデル5世の選出が決定されましたが、両教皇は退位を拒否。結果、3人の教皇が同時に存在するという異例の事態が発生しました。

ベネディクトゥス13世は、アラゴンへの傾斜を強め、マルティン1世の後継者会議に影響力を及ぼし、1412年には自身支持のフェルナンド1世をアラゴン王に選出させることに成功しました（カスペの妥協）。スコットランドのセント・アンドルーズ大学は、創立憲章にベネディクトゥス13世の教皇印璽が押されていることからも、彼の影響力の広さがうかがえます。

しかし、ローマ王ジギスムントの仲介によるコンスタンツ公会議（1415年）で、3人の教皇の廃位が決定されました。グレゴリウス12世は自主的に退位、ヨハネス23世も廃位されましたが、ベネディクトゥス13世は退位を拒否しました。ジギスムントの説得を受けたフェルナンド1世、カスティーリャ、ナバラ、スコットランドの支持を失い、フェレールにも裏切られたベネディクトゥス13世は孤立し、1417年に正式に廃位。マルティヌス5世が新たな教皇に選出され、教会大分裂は終焉を迎えました。

廃位後もベネディクトゥス13世は、自身の正統性を主張し続けました。フェルナンド1世の死（1416年）まで彼を呪詛し続け、その後はアルフォンソ5世の庇護を受け、ペニスコラ城に隠遁しました。1422年には4人の枢機卿を任命し、後継者選びを命じました。1423年にペニスコラ城で死去するまで、彼は自身の教皇位を主張し続けました。彼の死後もペニスコラでは、ベネディクトゥス13世はパパ・ルナとして慕われています。しかし、彼の死後も対立教皇選出をめぐる混乱は続き、1811年にはスペイン侵攻したフランス軍によって遺体が破壊されるという悲劇も経験しました。ベネディクトゥス13世の生涯は、教会大分裂という激動の時代を象徴する、ドラマチックなものでした。

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