ビセンテ・フェレール

ビセンテ・フェレールとは

ビセンテ・フェレール（Vicente Ferrer、1350年1月23日 - 1419年4月5日）は、中世ヨーロッパで活躍した聖職者です。カタルーニャ語ではビセン・ファレー（Vicent Ferrer）、フランス語ではヴァンサン・フェリエ（Vincent Ferrier）と呼ばれます。現在のスペイン・バレンシアで生まれ、説教者としてヨーロッパ各地を巡り、その熱意あふれる演説と奇跡によって、多くの人々から尊敬を集めました。カトリック教会では聖人として崇められ、記念日は4月5日です。

生涯

1350年、ビセンテはアラゴン連合王国の一部であったバレンシア王国の都市バレンシアで誕生しました。父ギジェルモ・フェレールは公証人で、上流階級とのつながりがあり、そのおかげでビセンテは有力者の代父のもとで洗礼を受けました。当時バレンシアは黒死病の流行に苦しんでいましたが、ビセンテは幼い頃から信仰心を持ち、聖職者の道を志しました。

1367年、ビセンテはドミニコ会に入り、レリダで学びました。1378年に教会大分裂が始まると、彼はアヴィニョン対立教皇クレメンス7世の側近ペドロ・デ・ルナ（後のベネディクトゥス13世）に引き立てられ、司祭に叙階されました。ビセンテはアヴィニョン教皇庁の熱心な支持者として活動し、イベリア半島を中心に民衆にアヴィニョン支持を訴え、その熱狂的な人気を博しました。

1399年以降は活動範囲を広げ、フランスなど他の国々にも足を運びました。ペドロがクレメンス7世の後を継いで対立教皇ベネディクトゥス13世となると、ビセンテは引き続きアヴィニョンに仕えました。1403年にベネディクトゥス13世がフランスと対立してアヴィニョンを退去すると、ビセンテはバレンシアのペニスコラに移住したベネディクトゥス13世を依然として支持し続けました。1412年には、アラゴン王位を決定する会議（カスペの妥協）に弟ボニファシ・フェレールと共に出席し、ベネディクトゥス13世の意向に沿ってフェルナンド1世の即位に尽力しました。また、同郷のアルフォンソ・デ・ボルハ（後のカリストゥス3世）を見出し、その将来の栄達を予言するなど、彼に大きな影響を与えました。

しかし、教会大分裂を終わらせるべくコンスタンツ公会議が開催され、ベネディクトゥス13世の廃位と教会の統一が図られると、ビセンテは1416年にベネディクトゥス13世の支持を撤回しました。同年にフェルナンド1世も支持を撤回したため、翌1417年にはベネディクトゥス13世は孤立し、公会議から廃位を宣言されました（本人は認めず）。1418年、ビセンテはフランス北西部のブルターニュに移り、民衆に熱烈な歓迎を受けながら説教を続けました。1419年、ヴァンヌで69歳でその生涯を閉じました。死後の1455年、かつて見出したアルフォンソ・デ・ボルハが教皇カリストゥス3世に選出され、ビセンテは列聖されました。

事績と伝説

ビセンテ・フェレールの説教は人々の心に強く訴えかけるものでした。地獄の責め苦を荒々しく語る一方で、神の慈悲を願う時は優しく語りかけ、その熱狂的な説教は、飢餓やペスト、社会不安に怯える聴衆を魅了しました。彼の人気は非常に高く、ロバに乗って布教に向かうビセンテの後には、多くの支持者が付き従いました。1409年にバルセロナを訪れた際には、3000人もの人々が徒歩で同行したと伝えられています。

1413年9月、ビセンテがマヨルカ島で布教した際には、いくつかの奇跡が起こったとされています。パルマ・デ・マヨルカでは3回目の説教で雨が降り、日照りに苦しんでいた人々を喜ばせました。バルデモーサでは豪雨に見舞われましたが、ビセンテが祈祷すると雲が晴れ、説教壇に使われたオリーブの木は聖遺物として崇められました。マヨルカ島での滞在は約半年間でしたが、1414年2月にビセンテがアラゴンに戻る際には、多くの市民、参事会員、貴族が港に集まり、別れを惜しんだと言われています。

晩年のブルターニュ訪問でも、ビセンテの人気は衰えることなく、民衆からは熱烈な歓迎を受け、貴族からは深い尊敬を集めました。1456年にヴァンヌで遺体が埋葬された際、ブルターニュ公国が葬儀費用を求めたにも関わらず、多くの庶民が自ら費用を工面し、埋葬を見送ったと伝えられています。

ビセンテは生涯でフランス、イングランド、スコットランド、アイルランド、イタリアなどを訪れ、説教はラテン語で書き、カタルーニャ語で話していました。カタルーニャ語は他のヨーロッパの言語と起源を同じくするため、外国人ともある程度の意思疎通が可能でした。ビセンテの同行者が残した300編の説教記録は、カタルーニャ語の豊かな表現を後世に伝え、ビセンテはカタルーニャ語文学における重要な人物とみなされています。

まとめ

ビセンテ・フェレールは、中世ヨーロッパにおいて、説教と奇跡によって人々の心を捉えた聖職者です。教会大分裂という激動の時代において、その生涯を通じて信仰を貫き、多くの人々に希望を与えました。彼の業績は、カトリック教会における聖人としての崇敬だけでなく、カタルーニャ語文学においても重要な足跡を残しています。

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