ベリサリウス

フラウィウス・ベリサリウス：東ローマ帝国の英雄とその波乱の人生

フラウィウス・ベリサリウス（500年/505年 - 565年）は、東ローマ帝国を代表する名将として歴史に名を残す人物です。その卓越した軍事手腕から、歴史家エドワード・ギボンは彼を「大スキピオの再来」と評しました。本稿では、ベリサリウスの生涯を、彼を取り巻く時代背景や人物像を交えながら詳細に解説します。

輝かしい初期の経歴

ベリサリウスの出自は定かではありませんが、現在のバルカン半島東部トラキア地方の農民出身と推測されています。ユスティヌス1世治世下で兵役を開始し、ユスティニアヌス1世の即位（527年）後は帝国軍の司令官として活躍しました。

初期のキャリアにおいては、サーサーン朝ペルシアとの防衛戦で経験を積みます。緒戦では敗北を喫するものの、巧みな防御戦術で敵の侵入を阻止することに成功し、その才能を皇帝に認められました。この功績により、コンスタンティノポリスの司令官にまで昇進し、532年の「ニカの乱」では、暴徒鎮圧に貢献してユスティニアヌス1世の地位を守りました。

北アフリカとイタリアの征服

530年代に入ると、ベリサリウスの軍事才能は、より大きな舞台で発揮されることになります。まず、北アフリカのヴァンダル王国では、東ローマ帝国に敵対的なゲリメルが王位に就いたため、ユスティニアヌス1世はベリサリウスを総司令官に任命し、征服に乗り出しました。

わずか25歳にして大任を担ったベリサリウスは、533年にカルタゴに上陸。圧倒的な兵力差をものともせず、数々の勝利を重ね、534年にはゲリメルを捕縛、ヴァンダル王国を征服しました。この功績により、凱旋式を行い、国民から称賛を浴びました。

続いて、イタリア半島を支配していた東ゴート王国への遠征です。535年にシチリアを制圧した後、東ゴート軍との戦闘に臨みます。ローマを制圧するも、東ゴート王国は反撃を開始し、激しいローマ包囲戦が勃発。ベリサリウスは1年半の激戦の末、勝利を収めますが、戦線は膠着状態に陥りました。

晩年の苦難

ユスティニアヌス1世の猜疑心やサーサーン朝ペルシアの侵攻といった状況により、540年にベリサリウスはイタリアでの指揮権を剥奪され、シリアに転戦。サーサーン朝との戦いで再び功績を挙げますが、皇帝の猜疑心は消えず、財産を没収され幽閉される憂き目に遭いました。

その後も東ゴート王国との戦いに再起しますが、548年には再び解任され隠棲生活に入ります。晩年は、皇位を巡る陰謀に関与したとして逮捕されますが、後に無実が判明し釈放されます。しかし、様々な史料に裏付けられた逸話では、晩年は貧困と不遇の中で過ごしたと伝わっています。

ベリサリウスの遺産

ベリサリウスの生涯は、プロコピオスの『戦史』などによって後世に伝えられています。彼の軍事的天才は高く評価され、小説やオペラにも題材として取り上げられています。彼の功績は、東ローマ帝国の版図拡大に大きく貢献したと言えるでしょう。しかし同時に、皇帝との複雑な関係や晩年の悲劇的な最期は、権力闘争の影と人間の脆さを改めて示すものとなっています。ベリサリウスの生涯は、成功と挫折、栄光と悲劇が複雑に絡み合った、まさにドラマティックな人生であったと言えるでしょう。

もう一度検索