ベルナルド・パスクィーニ

ベルナルド・パスクィーニ（Bernardo Pasquini、1637年12月7日 - 1710年11月21日）は、17世紀後半から18世紀初頭にかけてイタリアで活躍した重要な作曲家の一人です。バロック音楽の時代に生きた彼は、特に教会音楽と鍵盤楽曲の分野でその才能を発揮し、当時のローマの音楽界において中心的な存在でした。現代の音楽史においては、イタリア鍵盤音楽の歴史において、初期バロックの巨匠ジローラモ・フレスコバルディと、その後の世代であるフランチェスコ・ドゥランテやジョヴァンニ・マリア・カジミーア・ツィポーリといった作曲家たちの間に位置する重要な橋渡し役として、彼の作品は再評価されています。

パスクィーニはイタリアのトスカナ地方に生を受けました。若い頃にイタリアの文化と音楽の中心地であったローマへと移り住み、そこで著名な音楽家たちに師事することで、作曲家としての基礎をしっかりと築きました。彼が学んだ師には、著名なオペラ作曲家であったアントニオ・チェスティや、同じくローマで活躍したロレート・ヴィットーリの名前が挙げられています。ローマに移ってからは、有力な貴族であったボルゲーゼ公の庇護を受けるようになり、これが彼のキャリア形成において大きな助けとなりました。当時の多くの音楽家と同様に、彼は貴族や教会からの支援を得ることで、安定した環境で作曲や演奏活動に専念することができたのです。

ローマでのパスクィーニは、重要な音楽的ポストに就きました。特に、ローマの主要な教会の一つであるサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂（Basilica di Santa Maria Maggiore）のオルガニストとしての活動はよく知られています。オルガニストは、典礼音楽の演奏や作曲を通じて、教会の音楽活動において極めて重要な役割を担う存在でした。彼のオルガニストとしての卓越した技量は、彼の名声を一層高めました。さらに、スウェーデンを退位しローマに滞在していた元女王クリスティーナも、パスクィーニの音楽的才能に感銘を受け、その庇護者となりました。クリスティーナ女王はローマにおける芸術と文化の有力な支援者であり、多くの芸術家が彼女のパトロンシップのもとで活動していました。パスクィーニもその一人として、女王からの手厚い保護を受け、音楽制作に励むことができました。

パスクィーニは、鍵盤楽曲や教会音楽だけでなく、オペラも作曲しました。1679年に制作された歌劇《愛はいずこ、苦しみはいずこ（Dov'è amore è pieta）》は、彼の代表的な舞台作品として挙げられます。このオペラは、パスクィーニの主要な庇護者であったクリスティーナ女王を称えるために作曲されたものであり、女王に献呈されました。オペラ作曲家としての側面は、彼の音楽家としての多才さを示しています。

ローマで活動していたパスクィーニは、同時代の多くの著名な音楽家たちとも交流を持ちました。特に、イタリア・バロック後期を代表する作曲家であるアレッサンドロ・スカルラッティが、1703年から1708年にかけて二度目のローマ滞在をしていた期間、パスクィーニはヴァイオリンの巨匠アルカンジェロ・コレッリと共に、頻繁にスカルラッティのもとを訪れていたことが知られています。この三人の交流は、当時のローマにおける音楽界の活発さを示すものであり、互いの音楽に影響を与え合った可能性も十分に考えられます。

ベルナルド・パスクィーニの音楽における最も重要な貢献の一つは、その鍵盤楽曲にあると広く認識されています。オルガンやチェンバロのために書かれた彼の作品は、フレスコバルディによって確立されたイタリア鍵盤音楽の伝統を受け継ぎつつ、自身の独創的な様式を発展させました。彼の鍵盤作品は、厳格な対位法と華やかなパッセージワークを組み合わせた特徴を持ち、当時の鍵盤楽器の技術的な可能性を追求したものでした。これらの作品は、イタリア鍵盤音楽が後期バロックへと移行する過程において、極めて重要な役割を果たしました。長い間、彼の鍵盤楽曲はフレスコバルディや他の作曲家ほど広く知られていませんでしたが、近年の音楽史研究の進展や古楽器演奏の隆盛に伴い、その芸術的価値と歴史的意義が改めて評価されるようになっています。特に、トッカータやパルティータといった形式における彼の革新的なアプローチは注目に値します。

ベルナルド・パスクィーニは、その生涯の大半をローマで過ごし、作曲家および演奏家として多大な貢献をしました。1710年11月21日、彼はローマでその波乱に満ちた生涯を閉じました。彼の遺体は、彼が長年活動の拠点としたローマにある聖ロレンツォ教会に埋葬されました。これは、彼がローマの音楽界において確固たる地位を築いていたことの証と言えるでしょう。

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