ジローラモ・フレスコバルディ

ジローラモ・フレスコバルディ

初期バロック時代（1583年 - 1643年）に活躍したイタリアの作曲家、ジローラモ・フレスコバルディは、鍵盤楽器、特にオルガンとチェンバロのための作品において、この時代の音楽に新たな地平を切り開きました。声楽曲も遺していますが、彼の真価は鍵盤音楽にこそ見出されます。

生涯

1583年9月13日にフェラーラで生を受けたフレスコバルディは、地元で有名な作曲家でオルガニストのルッツァスコ・ルッツァスキに師事しました。当時フェラーラに滞在していたカルロ・ジェズアルドからも影響を受けた可能性が指摘されています。パトロンであったエンツォ・ベンティヴォーリョの支援を得て、1607年春にはローマのサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂のオルガニストの地位を獲得します。同年、フランドル地方へのローマ教皇庁大使に任じられたベンティヴォーリョに同行してブリュッセルを旅しました。1608年にローマに戻ると、宗教音楽の中心地であるサン・ピエトロ大聖堂のオルガニストに就任し、その地位を確立します。また、1628年から1634年にかけては、文化の中心地であったフィレンツェのメディチ家宮廷でもオルガニストを務めるなど、当時の主要な音楽都市で活躍しました。

作品

フレスコバルディの作品の大部分は、オルガンやチェンバロといった鍵盤楽器のために書かれました。彼の手がけた形式は多岐にわたり、即興的な性格を持つトッカータ、自由な発想に基づくカプリッチョ、厳格な対位法によるリチェルカーレ、そしてファンタジア、カンツォーナ、舞曲、変奏曲といった多様なジャンルに及びます。とりわけ有名な作品集としては、1635年に出版された『音楽の花束（Fiori musicali）』が挙げられます。これはミサの際に用いられるオルガン曲を集めたもので、典礼におけるオルガンの役割を確立した重要な作品です。彼の代表的なトッカータ集は、第1巻が1615年、第2巻が1627年に世に出されました。中でも、第1巻の改訂版に収められている「パッサカリアによる100のパルティータ（Cento Partite sopra Passacagli）」は、極めて技巧的で実験的な性格を持つ作品として知られています。ミサ曲やモテット、マドリガーレなどの声楽曲や、鍵盤作品以外の器楽曲も存在しますが、これらは鍵盤作品に比べるとあまり広く知られていません。1628年には『いかなる楽器によっても演奏可能なカンツォーナ集 第1巻』を出版し、器楽アンサンブルの分野にも貢献しています。

フレスコバルディはまた、テンポに対する近代的な思考の先駆者の一人でもありました。彼は、一定の拍節を示す旧来の白符定量記譜法と、演奏上の加速や減速を伴う近代的なテンポ概念との間に立つ、革新的な表現方法を探求しました。これにより、彼の作品は豊かな表現力と柔軟なテンポの揺れを特徴としています。

後世への影響

フレスコバルディの革新的な鍵盤音楽は、後世の作曲家に多大な影響を与えました。特に、彼の弟子であるヨハン・ヤーコプ・フローベルガーを介して、ドイツやフランスのバロック・オルガン楽派へ影響を波及させました。後の時代の鍵盤音楽の巨匠たちも彼の作品から多くを学び、ヨハン・セバスチャン・バッハがフレスコバルディのオルガン曲集『音楽の花束』を写譜して研究していたことは広く知られています。フレスコバルディは、バロック初期における鍵盤音楽の発展に不可欠な存在であり、その確立した様式は後続世代の礎となりました。

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