ベンガルヤマネコ

ベンガルヤマネコ (Prionailurus bengalensis)

ベンガルヤマネコは、ネコ目ネコ科に属する小型の食肉類で、アジア各地に広く分布しています。その多様な亜種を含め、生息環境や形態、生態について詳しく解説します。

分布

ベンガルヤマネコは、アフガニスタンから東はロシア東部まで、南はインドネシアまでと、非常に広範囲に分布しています。具体的には、アフガニスタン、インド、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、韓国、中国（香港を含む）、台湾、北朝鮮、日本（対馬、西表島）、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ブータン、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス、ロシア東部など、多様な地域に生息しています。

形態

ベンガルヤマネコは、額から肩にかけて4～5本の暗色の縞模様が特徴的です。また、耳の後ろ側は黒い体毛で覆われ、白い斑点（虎耳状斑）が見られます。これらの特徴は、他のネコ科動物との識別点となります。

分類

ベンガルヤマネコの分類は複雑で、特に亜種間の関係については議論が続いています。かつては亜種ツシマヤマネコや亜種イリオモテヤマネコを独立種とする説もありましたが、近年の分子系統学的研究により、これらの亜種もベンガルヤマネコの一種とする説が有力です。特に、亜種ツシマヤマネコと南アジア個体群、亜種イリオモテヤマネコと東南アジア個体群との遺伝的距離が小さいことが、この説を裏付けています。しかし、MSW3では亜種イリオモテヤマネコを独立種として扱うなど、見解が分かれる点もあります。

以下は、主な亜種とその分布です。

Prionailurus bengalensis bengalensis
インド、タイ、ミャンマー、インドシナ半島
Prionailurus bengalensis alleni
海南島
Prionailurus bengalensis borneoensis
ボルネオ島
Prionailurus bengalensis chinensis
中国
Prionailurus bengalensis euptilurus (ツシマヤマネコ、アムールヤマネコ)
韓国、中国北東部、北朝鮮、日本（対馬）、ロシア南東部（済州島では絶滅）
体長: 60～83cm、尾長: 25～44cm、体重: 3～6.8kg。全身は長い体毛で覆われ、灰褐色の毛色に不明瞭な暗褐色の斑紋があります。額から頭頂部には4本の暗色と2本の白色の縞模様があります。
Prionailurus bengalensis heaneyi
パラワン島
Prionailurus bengalensis horsfieldi
ネパール、ブータン、カシミール地方
Prionailurus bengalensis iriomotensis (イリオモテヤマネコ)
日本（西表島）固有亜種
体長: 50～60cm、尾長: 23～24cm、体重: オス3.5～4.5kg、メス2.5～3.5kg。尾の背面に暗褐色の斑点がありますが、腹面には斑紋がありません。
Prionailurus bengalensis javanensis
ジャワ島、バリ島
Prionailurus bengalensis rabori
セブ島、ネグロス島、パナイ島
Prionailurus bengalensis sumatranus
スマトラ島
Prionailurus bengalensis trevelyani
カシミール地方、バロチスタン

スンダ列島やフィリピン個体群を独立種P. javanensisとして分割する説も存在します。また、狭義の本種は大きく南北に2つの系統に分かれるという解析結果もあります。

生態

ベンガルヤマネコは、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫など、多様な動物を捕食します。例えば、西表島の個体群は、クマネズミ、クビワオオコウモリ、リュウキュウイノシシの幼獣などの哺乳類、オオクイナ、カルガモ、コノハズク、シロハラ、シロハラクイナなどの鳥類、キシノウエトカゲ、カエル、マダラコオロギ、サワガニ類などを食べています。繁殖様式は胎生で、西表島の個体群は12～3月に発情期を迎え、4～6月に出産・育児を行います。一度に1～3頭の幼獣を産みます。

人間との関係

ベンガルヤマネコは、1977年にネコ科単位でワシントン条約附属書IIに掲載され、1995年には基亜種のインド・タイ・バングラデシュ個体群が附属書Iに掲載されました。日本では、1970年に東山動植物園が初めて飼育下繁殖に成功しています。

ツシマヤマネコ (P. b. euptilurus)

対馬ではトラゲやトラネコと呼ばれており、主に上島北部に分布していましたが、近年は南部にも分布を広げています。しかし、1990年代には減少傾向にあり、2000年代以降も生息数は安定または減少しているとされています。生息数の減少は、森林伐採や河川改修、交通事故に加え、ニホンジカやイノシシの増加による植生の変化、ノイヌや猟犬による捕食、イエネコからの感染症などが原因として挙げられます。1949年に狩猟が禁止され、1971年に国の天然記念物、1994年に国内希少野生動植物種に指定されています。2000年代前半には80～100匹、2010年代前半には70～100匹が生息すると推定されています。

イリオモテヤマネコ (P. b. bengalensis)

西表島ではヤママヤーやヤマピカリャーと呼ばれています。リゾート開発や農地開発、道路改修による生息地の破壊、交通事故、イヌによる捕食などが原因で生息数が減少しています。観光客の増加による攪乱、ノネコとの競合や交雑、感染症も懸念されています。かつては安定していると考えられていましたが、近年は減少傾向にあり、特に低地での減少が顕著です。1972年に国の天然記念物、1977年に特別天然記念物に指定され、1994年には国内希少野生動植物種に指定されています。1994年には108～118匹、2008年には100～109匹が生息すると推定されています。

脚注

注釈

出典

関連項目
* ベンガル (ネコ) - 本種とイエネコの交雑種

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