ベンタブラック

ベンタブラック：光を吸収する驚異の物質

ベンタブラック（Vantablack）は、カーボンナノチューブで構成された、可視光の最大99.965%を吸収する物質です。その驚異的な吸収力は、光が当たると反射するのではなく、「チューブの森」のような構造に捉えられ、チューブ内で何度も屈折を繰り返すことで、最終的に熱として放出される仕組みによって実現されています。この特性から、ベンタブラックは「最も黒い物質」として知られていましたが、2019年にMITが発表した吸収率99.995%の物質によって、その記録は更新されました。

語源

ベンタブラックの名称は、「Vertically Aligned NanoTube Arrays（垂直に並べられたナノチューブの配列）」の頭文字をとって名付けられました。この名称が示すように、ナノチューブが垂直に整列した構造が、その驚異的な光吸収能力の鍵となっています。

発展の歴史

ベンタブラックの開発初期段階は、イギリス国立物理学研究所で進められました。しかし、「VANTA」という言葉は、この時点ではまだ生まれていませんでした。その後、開発はSurrey NanoSystems社に引き継がれ、現在も研究が進められています。

多岐にわたる応用

ベンタブラックの応用範囲は非常に広く、望遠鏡の迷光防止や赤外線カメラの性能向上など、様々な分野で利用されています。Surrey NanoSystems社のCTOであるベン・ジェンセン氏は、「ベンタブラックは、光をコントロールする全く新しい可能性を切り開く」と述べています。

具体的な応用例としては、以下のようなものが挙げられます。

集光型太陽熱発電: 熱の吸収率を高め、発電効率の向上に貢献
軍事: 熱カモフラージュなど、高度な偽装技術に利用

ベンタブラックの放射率と拡張性は、これらの応用を可能にする大きな要因です。また、その独特な質感は、芸術分野でも注目を集めており、芸術家のアニッシュ・カプーアは、この物質を創作活動に用いています。さらに、近年では、H.モーザーなどの時計メーカーが、時計の文字盤にベンタブラックを採用するなど、その活用はますます広がっています。

2019年8月30日には、BMWがベンタブラックの派生素材で塗装したBMW・X6の特別モデルを発表し、フランクフルト・モーターショーで公開されました。このモデルは、ベンタブラックの吸収力を活かしつつ、若干の反射率を高めることで、独特な視覚効果を生み出しています。

既存の物質からの改善点

ベンタブラックは、従来の物質と比較して、光の吸収率において大きな進歩を遂げました。例えば、木炭は入射光の約4%を反射しますが、ベンタブラックはわずか0.035%しか反射しません。これは、既知の2番目に放射を吸収する物質が0.04%の光を反射するのと比較しても、圧倒的な吸収率です。

また、ベンタブラックは、400℃という比較的低い温度で形成できるという利点もあります。アメリカ航空宇宙局（NASA）が開発した類似の物質は、750℃の高温が必要なため、高温に弱い物質への応用は難しいとされていました。ベンタブラックは、この問題を解決し、より幅広い物質への応用を可能にしました。

さらに、ベンタブラックは、ガス放出や粒子降下が少ないという特徴があります。これまでの類似物質は、これらの問題のために商用化が難しかったのですが、ベンタブラックはそれらを克服しています。また、振動耐性や耐熱性にも優れており、過酷な環境下での使用にも適しています。

まとめ

ベンタブラックは、その驚異的な光吸収能力と、優れた特性により、様々な分野で革新的な応用が期待される物質です。その応用範囲は、科学技術から芸術、そして産業まで広がり続けており、今後のさらなる発展が注目されます。

脚注

片浦プロット: カーボンナノチューブの構造と物性に関する研究において、重要な指標となるグラフ

外部リンク

Vantablackでコーティングされたアルミ箔の画像

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