ベンチャーウイスキー

株式会社ベンチャーウイスキーは、埼玉県秩父市を拠点とする酒造メーカーです。創業者の肥土伊知郎（あくと いちろう）氏が手掛けるウイスキーブランド「イチローズモルト」で知られ、「時とともに成長する」を社是としています。

同社の創業は、肥土氏の家業であった旧東亜酒造が経営難に陥り、2003年の事業譲渡時に羽生蒸溜所のウイスキー原酒が廃棄寸前となった危機に遡ります。約20年熟成された400樽を含む原酒が失われる運命にあった中、肥土氏はその価値を信じ、独立を決意。当時のウイスキー不況下で原酒の引き取り手は皆無でしたが、製造免許を持つ笹の川酒造が、酒文化を守るという理念から支援を表明。肥土氏は原酒を活かしたウイスキー造りを約束し、2004年9月にベンチャーウイスキーを設立しました。

設立後、羽生蒸溜所の原酒を用いた最初の製品「イチローズモルト ヴィンテージシングルモルト1988」を2005年に発売。資金難ゆえワインボトルを使用し、高価ながらもバーへの直接営業で2年かけて完売させ、品質への確信を得ました。

肥土氏の長年の夢であった自社蒸溜所は、故郷秩父市に建設が決定。酒造りに適した風土と、埼玉県との粘り強い交渉による土地確保を経て、2007年に秩父蒸溜所が完成しました。2008年2月にウイスキー製造免許を取得し稼働開始（国内35年ぶり）。2011年には初の自社製シングルモルト「秩父 ザ・ファースト」を発売し、即日完売となりました。

需要拡大に伴い、2019年10月には生産能力増強のため秩父蒸溜所近くに第2蒸留所が本格稼働。将来的な売上倍増を目指すと共に、秩父産原料を用いたウイスキー造りも視野に入れています。さらにグレーンウイスキー製造へも進出し、2023年4月には北海道苫小牧市に子会社ベンチャーグレインの苫小牧蒸溜所を着工。地の利を活かし、2025年春の操業開始を目指します。

「イチローズモルト」は国際的に高く評価され、ワールド・ウイスキー・アワード（WWA）では2017年から5年連続で世界最高賞を受賞するなど、輝かしい実績を上げています。

代表的な商品としては、手頃な「ホワイトラベル」、羽生と秩父の原酒を用いた「ダブルディスティラリーズ」、ミズナラ樽やワイン樽熟成シリーズ、そして希少な羽生原酒による全54種の限定「カードシリーズ」があります。カードシリーズはオークションで約1億円で落札されるほどの人気ですが、肥土社長は高額転売による愛飲家への影響を懸念し、ウイスキーは「飲む体験」を提供するものだという理念を強調しています。

ベンチャーウイスキーは、危機からの再生、そして品質と挑戦を追求する姿勢によって、日本のウイスキーを世界に知らしめる存在となりました。その成長と今後の展開が注目されています。

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