ベン・ターピン

ベン・ターピン：サイレント映画時代のコメディスター

ベン・ターピン（Bernard "Ben" Turpin, 1869年9月19日 - 1940年7月1日）は、アメリカ合衆国のコメディアン、俳優として、サイレント映画の時代にその名を知られました。彼の独特な外見と、体を張ったスラップスティックな演技は、多くの観客を魅了しました。

生い立ちと私生活

1869年、ターピンはルイジアナ州ニューオーリンズで、キャンディ店を経営する家庭に生まれました。1907年に女優のキャリー・ルミューと結婚しましたが、キャリーは1923年にインフルエンザが原因で聴覚を失ってしまいます。ターピンは献身的に妻の介護を続けましたが、1925年にキャリーは他界しました。敬虔なカトリック教徒であったターピンは、ビバリーヒルズの教会に所属し、カトリック映画業組合にも参加していました。

ヴォードヴィルから映画界へ

ターピンはヴォードヴィル、バーレスク、サーカスといった舞台でキャリアをスタートさせました。小柄な体格、ブラシのような口髭、そして何よりも特徴的なのは藪睨みでした。藪睨みは若い頃の事故によるものだと本人は語っており、それを自身のコメディアンとしての個性として大切にしていました。彼の藪睨みは非常に有名で、保険がかけられていたという逸話も残っています。

ターピンは体を張った激しい喜劇を得意とし、舞台でのアクロバティックな動きや、独特な尻もちのつき方は、周囲を驚かせました。特に「100と8つ」と彼が呼んだ前方宙返りは、彼の代表的なギャグの一つでした。

映画界での活躍

1907年、ターピンはシカゴのエッサネイ・スタジオで映画デビューを果たしました。俳優としてだけでなく、道具係としても働いたターピンは、1909年の映画で、映画史上最初の「パイ投げ」を受ける役を演じています。1912年には、早くも映画雑誌でインタビューを受けるなど、人気俳優としての地位を確立しました。

1915年にチャールズ・チャップリンがエッサネイ・スタジオに加入すると、ターピンはチャップリンとの共演をすることになります。しかし、ターピンの粗削りなスタイルは、チャップリンの繊細な演出とは相容れず、短期間でコンビは解消されました。

チャップリンが去った後、ターピンはヴォーグ・コメディー・カンパニーに移籍し、数多くのコメディ映画で主演を務めました。この時期の作品は、ターピンの人気の上昇とともに、様々なタイトルで再公開されました。

マック・セネットとの出会い

1917年、ターピンはマック・セネットのキーストン・スタジオに加わりました。セネットのコメディスタイルとターピンの個性は完璧に合致し、ターピンは様々な役柄を演じ、その喜劇的な才能を存分に発揮しました。1920年代には、ルドルフ・ヴァレンティノのパロディである『笑王ベン・タービン』が大ヒットし、ターピンはスターとしての地位を不動のものとしました。セネットの下で、ターピンは短編映画だけでなく長編映画にも出演し、「私はベン・ターピン。週に3,000ドル稼いでいる。」という自己紹介を決め台詞にしていました。

トーキー映画と引退

1928年、セネットはトーキー映画への移行に伴い、スタジオを閉鎖し、ターピンは低予算映画を製作する会社と契約しました。しかし、1929年にトーキー映画が主流になると、ターピンは引退を決意します。不動産投資で成功していたターピンは、経済的に困窮することはなく、その後は時折、カメオ出演という形で映画に出演しました。

1932年の『進めオリンピック』や、1935年の短編映画『キーストン・ホテル』などに出演し、往年のファンを喜ばせました。最後の映画出演は1940年のローレル&ハーディの作品でした。チャップリンの『独裁者』への出演も予定されていましたが、実現することはありませんでした。

死と遺産

1940年7月1日、ターピンは心臓発作で亡くなりました。葬儀はビバリーヒルズの教会で行われ、アンディ・クライド、ビリー・ビーヴァン、ジェームズ・フィンレイソン、チャールズ・マレイといった、かつての共演者たちが棺を担ぎました。

ターピンの藪睨みは、彼のトレードマークとして、映画史に刻まれました。1939年の映画『ハリウッド・カヴァルケード』では、ターピン自身が藪睨みを作る様子が描かれています。また、1969年の映画『The Comic』には、ターピンをモデルにしたキャラクターが登場するなど、彼のコメディスタイルは後世にも影響を与えました。

ベン・ターピンは、サイレント映画の時代を彩った偉大なコメディアンとして、その名を永遠に残すことでしょう。

もう一度検索