ペトル・エベン

生涯

ペトル・エベン（Petr Eben）は、1929年 1月22日にボヘミア北東部のジャンベルクに生を受け、2007年 10月24日にその生涯を終えた、チェコを代表する作曲家であり、卓越したオルガン奏者、そして即興演奏家でした。また、ナチスによるホロコーストを生き延びた人物としても知られています。

幼少期を過ごしたジャンベルクの後、青春時代は南ボヘミアの美しい街、チェスキー・クルムロフで過ごしました。この地で、彼はまずピアノを学び始め、後にチェロとオルガンにも親しむようになります。若い頃から音楽への深い愛情と才能を示していました。

しかし、彼の青春期は、ナチス・ドイツの占領下における第二次世界大戦という、チェコにとって、そしてエベン自身にとって極めて苦難に満ちた時代と重なりました。カトリックの家庭で育ったエベンでしたが、父がユダヤ人であったため、その出自ゆえに彼はナチスによる迫害の対象となります。1943年には学業を断念せざるを得なくなり、さらに戦争中、彼はナチスの手によってブーヘンヴァルト強制収容所に送られ、筆舌に尽くしがたい過酷な経験を強いられました。このホロコーストにおける体験は、彼のその後の人生観や音楽創作に深い影を落としたと推測されます。

戦後、自由を取り戻したエベンは、音楽への情熱を再び燃え上がらせます。プラハ音楽アカデミーへの入学を許され、ここでは著名なピアニスト、フランティシェク・ラウフにピアノを、そして作曲家パヴェル・ボシュコヴェツに作曲を師事し、専門的な音楽教育を受けました。この時期に培われた知識と技術が、彼の後の輝かしいキャリアの礎となります。

音楽家としての活動と並行して、エベンは教育者としても重要な役割を果たしました。1955年からは、プラハの歴史あるカレル大学で音楽史の教鞭を執り始め、多くの学生を育てました。その後、1978年から1979年にかけては、イギリスのマンチェスターにあるロイヤル・ノーザン・カレッジ・オブ・ミュージックで作曲法の教授を務め、国際的な舞台でもその指導力を発揮しました。母国に戻ると、1990年にはプラハ芸術アカデミーの作曲法教授に就任し、同年にはチェコの最も権威ある音楽祭の一つであるプラハの春音楽祭の会長も務めるなど、チェコ音楽界の重鎮としての地位を確立しました。

エベンは特にピアノやオルガンにおける卓越した即興演奏の技術で高く評価されていましたが、彼の創造力の核心は作曲にありました。

音楽作品

ペトル・エベンの作曲活動は非常に多岐にわたり、オラトリオ、バレエ音楽、管弦楽作品、協奏曲、ミサ曲、教会オペラ、オルガン曲、歌曲など、様々なジャンルにわたる作品を残しています。特に、彼自身の得意としたオルガン曲の分野では、教会暦に基づいた作品や瞑想的な作品など、数多くの重要なレパートリーを生み出しました。また、カトリックの信仰を持っていた彼は、宗教的なテーマに基づく作品も多く手掛けており、その精神性の高さは彼の音楽の大きな特徴の一つと言えるでしょう。

彼の重要な委嘱作品には、以下のようなものがあります。

オラトリオ『Apologia Socratus』
1983年のホラント音楽祭のためのバレエ音楽『Kletby a dobroreceni』（呪いと祝福）
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団からの依頼による管弦楽作品『Nocni hodiny』（夜の時間）や『Prazske nokturno』（プラハのノクターン）
Radio Viennaの新しいオルガンに献呈された『オルガン協奏曲第2番』
アヴィニョン演劇祭のために書かれたミサ曲『Missa cum populo』（民衆のミサ）
ザルツブルク大聖堂のためのオラトリオ『Posvatna znameni』（聖なるしるし）
* 教会オペラ『Jeremiah』（エレミヤ）

これらの大規模作品に加え、彼はオルガン独奏曲の分野で特に評価が高い作品を多く残しました。例えば、キャリア初期の『Sunday Music』（1957年 - 1959年）や『Laudes』（1964年）、そして晩年の『Biblical Dances』（1990年 - 1991年）や『Campanae gloriosae』（1999年）などは、彼のオルガン作品の代表として知られています。また、子供のための魅力的な歌曲集なども作曲しており、その創作活動の幅広さを示しています。

ホロコースト生還者としての深い経験と、カトリック信仰に根差した精神性は、エベンの音楽に独特の深みと力を与えています。彼の作品は、人間の苦悩と希望、そして信仰の力を力強く描出しており、多くの聴衆に感銘を与え続けています。

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