ペルシア人 (アイスキュロス)

『ペルシア人』は、古代ギリシアの劇作家アイスキュロスによって書かれた悲劇であり、紀元前5世紀のペルシア戦争におけるサラミスの海戦でのペルシア軍の敗北を背景に、その敗戦に対するペルシアの人々の反応を描いた作品です。現存するギリシア悲劇の中では最古の作品として知られています。

通常、ギリシア悲劇は神話を題材とすることが一般的でしたが、この作品は同時代の出来事を扱っているという点で異彩を放っています。同時代事件を扱った劇としては、他にプリュニコスによる『フェニキアの女たち』と『ミレトスの陥落』が知られていますが、現存するのは『ペルシア人』のみです。

この劇は、『ピーネウス』、『グラウコス』という二つの劇と組み合わせて三部作を構成しており、さらにサテュロス劇『プロメテウス』を加えた四作品が、紀元前472年の大ディオニューシア祭で上演され、アイスキュロスが優勝を果たしました。初演は紀元前472年に行われましたが、その後アイスキュロスがシラクサに渡った際にも再演された記録が残っています。

物語の舞台はペルシアの首都スサの王宮近くです。劇中には以下の人物が登場します。

アトッサ：ペルシア王ダレイオスの后であり、クセルクセスの母。
ペルシア人の長老たちによる合唱隊：物語の進行において重要な役割を果たす。
伝令：サラミスの海戦での敗北を伝える。
ダレイオスの亡霊：物語の終盤で現れ、敗戦の原因を語る。
クセルクセス：ペルシア王であり、敗戦の責任者。

劇のあらすじは以下の通りです。

まず、ペルシアの長老たちは、遠征軍からの便りが途絶えていることに不安を感じ、その心境を歌い上げます。そこにアトッサが現れ、不吉な夢を見たことを長老たちに語ります。その後、伝令が現れ、サラミスの海戦での大敗を告げます。アトッサと長老たちはこの報に深く嘆き悲しみ、先王ダレイオスの墓に供え物を捧げに行きます。すると、ダレイオスの亡霊が現れ、クセルクセスの遠征が海神ポセイドンの怒りを招き、それが遠征軍壊滅の原因であることを告げます。ダレイオスの説教の後、戦の惨状を物語るかのように襤褸を纏ったクセルクセスが現れ、長老たちと共に戦死者たちを嘆き、幕を閉じます。

この劇は、単なる戦の勝敗だけでなく、神々の怒りや人間の傲慢さがもたらす悲劇を描いており、古代ギリシアの倫理観や世界観を理解する上で重要な作品となっています。

日本語訳としては、以下のようなものが存在します。

「ペルシアの人々」久保正彰訳 - 『ギリシア悲劇全集 第1巻 アイスキュロス篇』人文書院、1960年
「ペルシア人」湯井壮四郎訳 - 『ギリシア悲劇Ⅰ アイスキュロス』ちくま文庫、1985年
元版『世界古典文学全集8 アイスキュロス　ソポクレス』筑摩書房、1964年
「ペルサイ」西村太良訳 - 『ギリシア悲劇全集2 アイスキュロスⅡ』 岩波書店、1991年
『アイスキュロス 悲壯劇』 「ペルスィア人」田中秀央・内山敬二郎訳、生活社、1943年
『ギリシャ悲劇全集1』 「ペルシャ人」内山敬二郎訳、鼎出版会、1979年、改訳版
『古典劇大系 第一巻 希臘編』「波斯人」村松正俊訳、近代社、1925年
『世界戯曲全集 第一巻 希臘編』「波斯人」村松正俊訳、近代社、1927年

参考文献としては、以下のものが挙げられます。

高津春繁編『世界古典文学全集　第8巻』筑摩書房　1981年
高津春繁編『ギリシア悲劇Ⅰ　アイスキュロス』筑摩書房　1985年
フランク・B・ギブニー編『ブリタニカ国際大百科事典』ティビーエス・ブリタニカ　1998年第3版

これらの資料を通じて、『ペルシア人』は、古代ギリシアの悲劇文化、そしてペルシア戦争という歴史的事件を理解するための貴重な手がかりを提供してくれます。

もう一度検索