ペルシア湾呼称問題

ペルシア湾呼称問題

ペルシア湾呼称問題とは、1960年代以降に顕在化した、中東における湾の名称に関する対立を指します。主にアラブ諸国とイランの間での衝突があり、アラブ諸国はこの湾を「アラビア湾」と呼ぶことを主張していますが、国際的には「ペルシア湾」という名称が広く受け入れられています。

概要

ペルシア湾は、アラビア半島とイランの間に位置する広大な水域です。国際的にはペルシア湾と称されており、英語圏や日本でもこの名称が使用されています。特にイランでは、ペルシア語で「خلیج فارس」（ハリージェ・ファールス）と呼ばれており、この名称が根強く支持されています。

しかし、1960年代から汎アラブ主義の影響を受ける中で、アラブ諸国はこの湾を「アラビア湾」と呼ぶようになりました。アラブの諸国は、湾岸地域の多くがアラブ人で構成されていることを理由に、国際的な呼称もアラビア湾であるべきだと主張しています。イラン側は、ペルシア湾という名称が歴史的に正当であると優位性を主張しており、双方の意見は衝突を生んでいます。

名称の歴史

「ペルシア湾」という名称の起源は、古代ギリシャの地理学者、ストラボンやプトレマイオスの時代にさかのぼります。彼らはこの湾を伝統的にペルシア湾と呼び、その名はイスラム圏やキリスト教圏のヨーロッパへと広まりました。7世紀初頭にイスラム教が興隆し、アラブ人がこの地域を支配するようになっても、地理学者たちは「ペルシア湾」または「ペルシア海」と表現していました。実際、1960年代のアラビア湾という名称が使われるようになるまで、この湾は長い間ペルシア湾と呼ばれていました。

「アラビア湾」という名前は古代には紅海の名称として用いられていましたが、近代に入ってからペルシア湾を指す名称として初めて文献で紹介されました。1957年に出版されたイギリスの書籍がこの名称を使用したことが起点とされています。

17世紀には、一部のヨーロッパの地図でペルシア湾に「アラビア湾」という名称が記載されることもありましたが、結局は従来の「ペルシア湾」に戻ることになりました。その後の歴史の中で、オスマン帝国や他の地域の地図でも「ペルシア湾」と記載され続けました。1840年にはロンドンの新聞で「イギリス海」と呼ばれることもありましたが、一般的には使われていません。

1979年のイラン革命後、イラン内部では「イスラム湾」や「ムスリム湾」といった新たな呼称が提案された武闘の気配がありましたが、イラン・イラク戦争の発生によりそんな動きは沈静化しました。

今日、ペルシア湾岸諸国間での国際機関は「湾岸協力会議」と呼ばれ、「ペルシア湾」の名称は使用されておらず、単に「湾」と記されています。2025年5月には、米国のトランプ政権がペルシア湾の呼称を「アラビア湾」に変更する可能性を示唆した報道もありました。

まとめ

ペルシア湾呼称問題は、中東における文化的、政治的対立を象徴するものであり、今後も議論が続くことが予想されます。それぞれの国々の立場や文化的背景を理解しながら、この問題に目を向けることが重要です。特に歴史的な観点から見た名称の使い方は、地域の人々のアイデンティティや政治的立場を反映する重要な要素となっているのです。

もう一度検索