ペンタウアー

ペンタウアー：ラムセス3世暗殺陰謀の謎

古代エジプト第20王朝、偉大なファラオ、ラムセス3世。その治世は繁栄と安定に彩られましたが、彼の死には、王位継承を巡る暗黒の陰謀が潜んでいました。この陰謀の中心にいたのが、ラムセス3世の息子、ペンタウアー王子です。

ペンタウアーという名は、トリノの司法パピルスという裁判記録に記された仮名であると考えられています。彼の本当の名前は、現在も謎に包まれたままです。パピルスによると、彼は母親であるティイによって企てられた、ラムセス3世暗殺計画に関与していました。ティイは、自らの息子であるペンタウアーを後継者に据えようとしたと推測されています。この陰謀は、王室内部の激しい権力闘争を示唆しており、王位継承を巡る熾烈な争いが当時存在していたことを物語っています。

陰謀は露見し、ペンタウアーは裁判にかけられました。判決の内容は不明ですが、彼は最終的に自殺に追い込まれたとされています。近年のミイラに関する研究からは、絞殺もしくは絞首刑による死の可能性が示唆されており、約18～20歳という若さでその生涯を終えたと推測されています。この死は、処刑というよりも、賜死という形で幕を閉じた可能性も考えられます。

ペンタウアーの死後、彼の遺体はどのように扱われたのでしょうか？エジプト学者ボブ・ブライヤーは、デイル・エル・バハリで発見された「Unknown Man E」、通称「叫ぶミイラ」がペンタウアーである可能性を指摘しました。このミイラは、通常とは異なる方法で処理されており、脳や内臓を取り除かずに防腐処理され、ヒマラヤスギの箱に入れられていたのです。この独特な埋葬方法は、急いで処理されたことを示唆しており、ブライヤーは、ペンタウアーが適切な葬儀を受ける間もなく、親族によって迅速にミイラ化され埋葬されたのではないかと推測しています。

近年行われたDNA分析は、このミイラがラムセス3世の息子であるという仮説を裏付ける結果をもたらしました。ミイラは、父方のY染色体ハプログループE1b1aと、ラムセス3世のDNAと半分を共有していたのです。この発見は、長年謎に包まれていた「叫ぶミイラ」の身元を、ペンタウアーである可能性が高いという結論に導きました。

ペンタウアーの生涯は、王位継承を巡る陰謀、裁判、そして謎に包まれた死という、ドラマチックな展開で幕を閉じました。しかし、最新の科学技術と考古学的な発見は、この古代エジプトの王子の謎を解き明かす鍵を与えつつあります。彼のミイラの発見とDNA分析は、古代エジプトの歴史を理解する上で、重要な一歩となるでしょう。今後の研究が、ペンタウアーとその時代をさらに深く解明することを期待されます。

もう一度検索