ホライゾン航空2658便火災事故

1988年4月15日、ホライゾン航空2658便（デ・ハビランド・カナダ DHC-8-102型機、機体記号N819PH）がシアトル・タコマ国際空港を離陸直後に発生した航空事故です。この事故は、DHC-8シリーズ初の全損事故として記録され、ホライゾン航空にとって初の乗客負傷事故となりました。

事故の概要

ホライゾン航空2658便は、シアトル・タコマ国際空港からスポケーン国際空港へ向かう国内定期便でした。離陸後、機体が上昇中に第2エンジンが故障。パイロットは空港への引き返しを試みましたが、燃料漏れから火災が発生。着陸後、機体の制御を失い、空港ターミナルに衝突しました。乗員乗客40名に死者は出なかったものの、4名が重傷、27名が軽傷を負いました。

事故機の詳細

事故機は、デ・ハビランド・カナダ DHC-8-102（機体記号N819PH）型機で、1985年12月21日に製造され、1986年に初飛行を行いました。1987年2月にホライゾン航空に納入され、事故発生までに3,106時間の飛行時間と4,097回の離着陸を記録していました。DHC-8-100の最大着陸重量は33,900ポンドでしたが、事故時の着陸重量は31,791ポンドでした。

乗員

機長は38歳の男性で、1979年6月にエア・オレゴンに入社し、1981年にホライゾン航空との合併に伴い、同社に勤務していました。DHC-8の他にフェアチャイルドSA-227の飛行資格を保有し、総飛行時間は9,328時間、うちDHC-8での飛行時間は981時間でした。副操縦士は35歳の男性で、1987年3月30日にホライゾン航空に入社。総飛行時間は3,849時間で、うちDHC-8での飛行時間は642時間でした。

事故の経緯

2658便は、乗員3名と乗客37名を乗せ、満席状態でシアトルを発ちました。離陸前の点検では異常は確認されず、18時25分に離陸許可が出ました。離陸滑走は正常で、機体は101ノットで離陸しました。離陸後、機体が高度1,000フィートに達した頃、右エンジンから液体が漏れていることに乗客が気づき、パイロットも右エンジンの出力低下に気づきました。機長はエンジンの出力を最大にしましたが、反応せず、空港への引き返しを決断。緊急事態を宣言しました。

最終進入時、副操縦士は右エンジンから閃光が発生したのを目撃し、右主翼に火災が発生していることを機長に伝えました。パイロットはフラップを展開し、右エンジンの消火装置を作動させました。着陸直前、パイロットは機体の制御が困難になっていることに気づき、着陸後、機体は滑走路を逸脱し始めました。最終的に、機体は管制塔の横を通り、ボーディング・ブリッジに衝突して停止しました。この様子は、空港の監視カメラに記録されていました。

救助活動

機体が停止してから15秒後には消火活動が開始されました。乗客乗員に死者は出ませんでしたが、4人が重傷、27人が軽傷を負い、重傷者を含む18人が病院へ搬送されました。

被害

機体は火災と衝突により大破し、修理不能と判断されました。これはDHC-8シリーズ初の全損事故となりました。地上設備にも被害が出ており、滑走路標識、手荷物カート、ピックアップトラック、補助電源装置、ボーディング・ブリッジなどが損傷し、修理費用は28万ドルと推定されました。

事故調査

国家運輸安全委員会（NTSB）が事故調査を実施し、連邦航空局（FAA）、ホライゾン航空、デ・ハビランド・カナダなどが調査に協力しました。

残骸の調査

フライトデータレコーダー（FDR）とコックピットボイスレコーダー（CVR）は無傷で回収されましたが、着陸後のデータは火災により電力供給が遮断されたため、FDRに記録されていませんでした。右主翼は火災により大きく損傷しており、空港から10,300フィート離れた場所でアクセスパネルが回収されました。このパネルには火災の跡は見られず、燃料爆発の衝撃で脱落したと結論付けられました。

監視カメラの映像解析により、着陸後にスポイラーが作動していなかったことが判明しました。

油圧装置の損傷

右エンジンの停止後、本来は予備の油圧装置が作動するはずでしたが、火災により作動せず、スポイラー、緊急ブレーキ、パーキングブレーキ、ノーズホイールステアリング、上部方向舵などが使用不能となりました。NTSBは、機体を減速させるための装置が全て火災により使用不能になったと結論づけました。

推定原因

NTSBは、高圧燃料フィルターが不適切に取り付けられていたために燃料漏れと火災が発生し、脱落したアクセスパネルが油圧装置を損傷させたことが原因で、着陸後の機体制御が失われたと結論付けました。フィルターの取り付けはエンジンの製造元で行われていましたが、ホライゾン航空の整備士はこれに気づきませんでした。

脚注

Aviation Safety Network(1988)
Aviation Safety Network(2019)
Spokesman-Review(1988)
[[国家運輸安全委員会]](http://libraryonline.erau.edu/online-full-text/ntsb/aircraft-accident-reports/AAR89-02.pdf)
Los Angeles Times(1988)
[[連邦航空局]](https://registry.faa.gov/aircraftinquiry/NNum_Results.aspx?NNumbertxt=N819PH)
Bureau of Aircraft Accidents Archives(1988)
[[AP通信]](https://apnews.com/80610a60e2883d168b8901a121977805)

ホライゾン航空2658便火災事故