ホンドテン

ホンドテン（学名：Martes melampus melampus）は、食肉目イタチ科イタチ亜科テン属に属する哺乳動物の一種です。日本の本州、四国、九州が本来の生息域とされています。体毛の色には変異があり、主に黄色っぽい個体は「キテン（黄貂）」、褐色を帯びた個体は「スステン」として区別されます。しかし、これらは亜種ではなく、同一亜種内の色彩変異として扱われます。

分布

この動物の自然分布域は日本の主要3島、すなわち本州、四国、そして九州です。地域によっては生息数が減少し、例えば千葉県や愛知県では準絶滅危惧種に指定されています。一方で、人間によって本来の生息地以外へ持ち込まれ、野生化した個体も存在します。具体的には、北海道の南部や中央部、および佐渡島で野生化して繁殖しています。また、長崎県の対馬に生息する亜種であるツシマテン（Martes melampus tsuensis）は、国の特別天然記念物として手厚く保護されています。

特徴

成長したホンドテンの大きさは、オスのほうがメスよりもやや大型になる傾向があります。一般的な体長は40センチメートルから55センチメートル、尾の長さは約15センチメートルから20センチメートル、体重は約1.0キログラムから1.5キログラムです。体毛の色は前述の通り、個体によって黄色から褐色まで幅広く見られますが、手足は通常黒色です。尾の色は体の色とほぼ同じです。黄色い体毛のキテンは東北地方に多く、褐色系のスステンはそれより南の地域に比較的多く生息する傾向がありますが、キテンも四国や九州にも生息が確認されています。季節によって毛の色が変化し、冬毛は夏毛に比べて色が薄くなる傾向があります。歯の構成は、切歯が上顎6本、下顎6本、犬歯が上顎2本、下顎2本、前臼歯が上顎8本、下顎8本、後臼歯が上顎2本、下顎4本で、合計38本です。乳頭の数は合計で6個あり、胸部にはなく、腹部に1対、鼠径部に2対配置されています。指の数は、前足に5本、後足に5本で、合計20本です。

生態

ホンドテンは冬眠を行わず、一年を通して活動します。特定の活動時間帯はなく、昼夜を問わず活動する姿が見られます。繁殖期を除けば、基本的に単独で行動することが多いです。非常に体が柔軟で、警戒心が強い性質を持っています。周囲の状況を確認するため、よく後ろ足で立ち上がって見回す仕草を見せることがあり、これは「目蔭（まかげ）」と呼ばれる行動です。鋭い爪を持っており、木登りが非常に得意です。この木登りの能力に注目し、キテンの名称は「黄色いテン」ではなく「木を好むテン（木貂）」に由来するという説が1924年に提唱されたこともあります。主な活動場所としては、沢や川の近くが好まれます。

巣は、地面の穴や木のうろ（樹洞）のほか、人間の建造物の床下や屋根裏などにも作られます。

食性

食性は非常に多様で、動物性の餌と植物性の餌の両方を食べる雑食性です。動物性の餌としては、ネズミやリスなどの哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類のほか、昆虫やムカデなども捕食します。植物性の餌としては、ヤマグワ、マタタビ、サクラ、ヤマブドウ、サルナシ（コクワ）などの果実を食します。

繁殖

交尾期は夏に訪れますが、実際の出産は翌年の春になります。これは、交尾後すぐに受精卵が子宮壁に着床するのではなく、一時的に発生が休止し、時間的な遅れが生じた後に着床する「着床遅延」という現象が起こるためです。出産は巣穴の中で行われ、一度に生まれる子供の数は2匹から4匹程度です。飼育下での観察例として、秋田市大森山動物園での記録では、1995年9月5日に交尾した個体が、翌1996年3月21日に2匹の子を出産したという報告があります。

鳴き声と保全

ホンドテンの鳴き声は、エゾクロテンと同じであるとされています。

保全状態評価としては、国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストにおいて、テン（Martes melampus）として「低危険種（Least Concern）」に分類されています。

北海道への移入

北海道に生息する野生化したキテンは、本来そこに自然に分布していたものではありません。犬飼哲夫氏の調査によって、毛皮生産のために飼育されていた個体が人為的に野外に放たれたことに端を発していることが明らかになっています。その経緯として、1931年9月の満州事変以降、国策として毛皮生産が奨励されたこと、そして太平洋戦争中の1944年に、養殖されていたキテンの餌が不足したため、札幌市や岩内町、八雲町、森町の養殖業者が個体を野外に放逐したことが挙げられています。これが、北海道南部および中央部でキテンが野生化し、生息するようになった主な理由です。

以上のように、ホンドテンは日本の森林生態系において重要な役割を担う動物ですが、地域によっては人間活動の影響を受けており、その生態や保全状況には注意が必要です。特に北海道や佐渡島における移入個体の動向や、対馬における固有亜種の保護は、今後の課題と言えるでしょう。

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