ホーホケキョ となりの山田くん

ホーホケキョ となりの山田くん：ジブリが挑んだデジタルと家族の物語

1999年7月、スタジオジブリは新たな一歩を踏み出しました。高畑勲監督による長編アニメーション映画『ホーホケキョ となりの山田くん』は、それまでのセル画アニメーションからデジタル制作へと移行した最初の作品です。20世紀最後のジブリ作品という節目の作品でもあり、多くの注目を集めました。

本作は、いしいひさいちによる4コマ漫画を原作としていますが、単なる原作再現ではなく、高畑監督が長年温めていた「家族」というテーマを表現したオリジナルストーリーとなっています。山田家の人々、特にまつ子とたかし夫婦、そして子供たちののぼるとのの子の日常が、ユーモラスかつ温かく描かれています。

物語は、結婚から子供たちの成長まで、山田家の日常を優しく綴ります。日本の四季折々の情景や、現代社会の様々な要素が、自然な形で描かれています。そして、物語全体を彩る魅力の一つとして、劇中では数々の歌が挿入されています。矢野顕子が主題歌「ひとりぼっちはやめた」を担当する他、童謡や日本の歌謡曲、そしてクラシック音楽など、多様な音楽が絶妙に物語を盛り上げています。

『ホーホケキョ となりの山田くん』最大の特徴は、その作画にあります。高畑監督の意向により、デジタル彩色でありながら、水彩画のような、手描きの温もりを感じる独特の画風を実現しました。そのため、通常作品の3倍もの、約17万枚もの作画枚数を要し、制作費は膨大なものとなりました。これは、後の『かぐや姫の物語』公開まで、ジブリ作品中最多の枚数でした。

音響面でも、ジブリ作品として初めてDTSデジタルサウンドを採用し、ドルビーデジタルと併用することで、臨場感溢れるサウンドを実現しました。この手法は、以降のジブリ劇場作品で標準となりました。

しかし、この意欲作は日本での興行成績においては苦戦を強いられました。制作費約20億円に対し、興行収入は約15.6億円、配給収入は約7.9億円と、目標を大きく下回ったのです。これは、ジブリ作品として異例の低い数値であり、配給元である松竹にとっても大きな痛手となりました。様々な要因が考えられますが、配給体制や宣伝戦略、劇場選びなど、様々な問題点が指摘されています。

しかし、『ホーホケキョ となりの山田くん』は、日本国内での商業的な失敗にも関わらず、世界各国で高い評価を得ました。特にアメリカでは大きな反響を呼び、アメリカの脚本家マイケル・アーントは、「この作品が無ければ、『リトル・ミス・サンシャイン』や『トイ・ストーリー3』は誕生していなかった」とまで述べています。また、ニューヨーク近代美術館（MoMA）に永久収蔵されるという名誉にも輝きました。

日本では地上波放送も、日本テレビの金曜ロードショーで一度のみの放送に留まり、その後は再放送されていません。興行的な失敗や初回放送の低視聴率、原作に忠実なキャラクターデザインがジブリらしさに欠けるとの評価など、様々な要因が考えられています。

『ホーホケキョ となりの山田くん』は、商業的な成功とは異なる形で、アニメーション史に大きな足跡を残した作品と言えるでしょう。その独特の作画、音楽、そして普遍的な家族の物語は、今もなお多くの観客の心を捉え続けています。デジタル制作という新しい挑戦と、普遍的なテーマの融合は、後世のアニメーション制作にも多大な影響を与え続けているのです。

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