ホーム (デラニー&ボニーのアルバム)

ホーム

『ホーム』は、アメリカを拠点に活動した夫婦デュオ、デラニー&ボニーが1969年に発表したスタジオ・アルバムです。ソウルミュージックの聖地ともいえるスタックス・レコードからリリースされた本作は、彼らにとって同レーベルでの最初の作品となりました。実は、同時期に制作が始められていたエレクトラ・レコードからのファースト・アルバム『オリジナル・デラニー&ボニー』よりも先に完成していながらも、市場への登場は本作の方が後になりました。

制作の背景

アルバムのレコーディングは、1968年2月27日から11月1日にかけて、断続的に行われました。特に初期のセッションは、スタックスの専属ハウスバンドであるブッカー・T&ザ・MG'sのメンバー4人（ブッカー・T・ジョーンズ、スティーヴ・クロッパー、ドナルド・ダック・ダン、アル・ジャクソン・ジュニア）を中心に、アイザック・ヘイズやウィリアム・ベルといったスタックスゆかりの才能、さらにホーン・セクションを迎えて実施されました。この編成は、まさにスタックス黄金期を支えたサウンドを彷彿とさせるものです。続く8月のセッションでは、ブッカー・Tを除くMG'sの3人にアイザック・ヘイズが参加し、9月にはホーン・セクションが追加されるなど、セッションごとに様々なミュージシャンが柔軟に組み合わされています。

特筆すべきは、11月1日にメンフィスを離れ、ハリウッドで行われたセッションです。ここでは、レオン・ラッセル、カール・レイドル、ジミー・カースタインといった西海岸の凄腕ミュージシャンたちが参加しました。このセッションで録音された楽曲の一つに、「ピース・オブ・マイ・ハート」があります。この曲は、その後ジャニス・ジョプリンの歌唱で大ヒットを記録しますが、デラニー&ボニーによるバージョンも高い評価を受けています。評論家のMatthew Greenwaldは、ジャニス版の持つ感情的な深さや切なさに加え、スタックスらしいファンキーで土着的な要素が加わっていると評しています。

また、本作の制作過程で録音されながらも、最終的にアルバムに収録されなかったアウトテイクの中には、「ダーティ・オールド・マン」や「ゲット・アワセルヴズ・トゥゲザー」といった楽曲がありました。これらは、後にデラニー&ボニーがエレクトラ・レコードへ移籍した際に再録音され、『オリジナル・デラニー&ボニー』に収められています。

さらに、1969年7月には、オリジナルLPに収録された一部楽曲やアウトテイクに対し、ホーンやキーボード、バックグラウンド・ボーカルといったパートが追加録音（オーバーダブ）され、サウンドが完成されました。この長期にわたる多層的なレコーディングプロセスを経て、『ホーム』は形作られていったのです。

アートワーク

アルバムのジャケット写真は、非常にパーソナルな雰囲気を持っています。デラニー・ブラムレットの故郷であるミシシッピ州ポントトクにある生家で撮影されたこの写真には、デラニーとボニーの夫婦、そしてデラニーの祖父が一緒に写っています。文字通り、彼らの「ホーム」（故郷、家）で撮られたこの写真は、アルバムタイトルに込められた意味を視覚的にも表現しています。

評価と位置づけ

商業的な観点からは、『ホーム』はデラニー&ボニーのスタジオ・アルバムの中で唯一、アメリカの主要アルバムチャートであるBillboard 200にランクインすることができませんでした。しかし、批評家からの評価は決して低いものではありませんでした。音楽評論家のRichie UnterbergerはAllMusicで5点満点中3.5点を付け、本作が彼らの後の成功作ほど広く知られていない事実を認めつつも、サウンドについては「後の作品と比べても、よりソウル寄りでロック色が少ないことを除けば、大きな違いはない」と述べています。また、著名な評論家であるロバート・クリストガウも本作にB+の評価を与え、「エレクトラのアルバム（『オリジナル・デラニー&ボニー』）と並ぶ作品ではない」としつつも、「十分に良い」と評しました。これらの評価は、本作が彼らの音楽性の基盤、特にソウルやR&Bへの傾倒を示す重要な作品であり、商業的な成功とは異なる文脈での価値を持つことを示唆しています。

リマスターCD

2006年には、スタックス・レコードから本作のリマスターCDが発売されました。このリマスター盤では、オリジナル盤に収録されていた楽曲に加え、未発表だったアウトテイクなどがボーナス・トラックとして追加され、収録曲数がオリジナルより多くなっています。特に、アメリカ盤と日本盤ではボーナス・トラックの収録内容やアルバム全体の曲順が異なっており、それぞれのバージョンで異なる形で本作を楽しむことができます。

『ホーム』は、デラニー&ボニーの長い音楽キャリアの初期段階において、スタックス・レコードという歴史的なレーベルで制作された、彼らのルーツを垣間見せる重要な作品です。商業的な知名度は高くないかもしれませんが、参加ミュージシャンの顔ぶれや、南部ソウルとロックが融合する前の彼らのサウンドを聴く上で、価値のある一枚と言えるでしょう。

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