ホームビルト機

ホームビルト機：夢を羽ばたかせる自作航空機の世界

ホームビルト機とは、航空機メーカーではなく、個人やアマチュアが自作する航空機のことです。キット機やスクラッチ機などとも呼ばれ、世界中で多くの愛好家によって製作され、飛行されています。その魅力は、既製品では得られないカスタマイズ性と、低価格で航空機を所有できる点にあります。

製作方法：キット機とスクラッチ機

大きく分けて、メーカーから販売されるキットを組み立てる「キット機」と、設計図に基づいて部品から自作する「スクラッチ機」の2種類があります。

キット機は、部品が用意されているため製作のハードルが低く、多くの製品が販売されています。ただし、エンジンは別途用意する必要がある場合が多く、ホームビルト機用のエンジンを製造する小規模メーカーも存在します。費用を抑えるために中古エンジンを使用したり、自動車用エンジンを流用する例も見られます。SUBARU製の水平対向エンジンは、航空機用ガソリンエンジンと親和性が高く、しばしば利用されています。

一方、スクラッチ機は設計図のみが提供され、部品の製作から行う必要があります。金属や木材の加工技術、各種工作機械の知識・技能が必要となるため、高度な技術と知識が求められます。しかし、航空工学の知識を活かして設計変更を行うことも可能であり、高い自由度が魅力です。著名な航空機設計者バート・ルータン氏も、自ら設計・製作を行うことで知られています。

一般的に、自作機の50%以上を自らの手で製作する必要があります。複雑な金属加工は個人では困難なため、「クイック・ビルド」キットのように、一部加工済み部品を提供するメーカーも存在します。それでも、組み立てや調整には長時間を要します。そのため、ヴァンズ・エアクラフト社のように、購入者を対象とした講習会を開設するメーカーもあります。

価格とコスト

ホームビルト機の価格は、機種や製作方法によって大きく異なります。安価なものでは1万ドル程度から、高価なものでも6万4000ドル程度と、メーカー製完成機（セスナ172Sは約29万ドル）に比べて遥かに安価です。特に、木材を使用する機体は部品加工が容易なため、低価格で製作できます。Pietenpol Air Camperという木製複葉機の設計図は、100ドルで販売されていた例もあります。ただし、特殊な構造や高性能な機体は、安価な完成機よりも高価になることもあります。

法規制と登録

通常の航空機と同様に、ホームビルト機も耐空証明を取得する必要があります。完成後、検査に合格し、機体が登録された後に初めて飛行が許可されます。多くの国では、非商用・娯楽目的の飛行に限定され、利益目的で販売する場合は航空機メーカーとして登録する必要があります。個人での書類申請は煩雑で、空域の制限もあります。

アメリカ合衆国では、「エクスペリメンタル・カテゴリー」に登録することで、メーカー製の航空機と遜色ない飛行が可能となります。このカテゴリーでは、組み立て者は申請により機体の修理担当者となり、各種検査を自身で行うことができます。これを利用し、アメリカ国内では組み立てと登録申請を代行する業者も存在します。また、航空用エンジンについても型式認定が不要となるため、安価な自動車用エンジンの改造例も見られます。

機体の種類と性能

ホームビルト機の種類は多岐に渡り、モーターグライダー、超軽量動力機、軽飛行機が中心ですが、ターボプロップ機、超軽量ジェット機、ヘリコプターなども存在します。近年では複合材やグラスコックピットを採用した高度な曲技飛行が可能な機体も登場しており、大手メーカー製の機体に匹敵する性能を持つものもあります。タンデム翼機やリフティング・ボディを採用した機体など、特殊な構造を持つものも多数存在します。

シーラス・エアクラフト社のように、ホームビルト機の販売からスタートし、後に完成機へ参入した小規模メーカーもあります。また、往年の名機の縮小レプリカを販売するメーカーや、ホームビルト機の製作を通じて航空機製造技術を習得した航空関連会社も存在します。

ホームビルト機の普及と文化

世界中で少なくとも3万機のホームビルト機が運航されていると推定されています。欧米ではホームビルト機の団体が活発に活動しており、アメリカの実験航空機協会（EAA）が主催するEAAエアベンチャー・オシュコシュでは、毎年多くのホームビルト機が集まります。軍隊で使用された例もあり、中華民国空軍、ベトナム共和国空軍、スリランカ空軍、インドネシア空軍では練習機としてパズマニーPL-1が採用され、近年でもナイジェリア空軍でヴァンズ・エアクラフトRV-6Aが採用されています。

ホームビルト機は、航空機の製造技術の進歩や個人の創造性を反映した、独自の文化を形成しています。今後も、様々な技術革新やデザインの多様化により、その発展が期待されます。

もう一度検索