ボウフウ

ボウフウ（防風、学名：Saposhnikovia divaricata）は、アジア北部に原産するセリ科の代表的な多年生草本です。主に中国北部やシベリア地方の乾燥した地域に自生しており、高さは比較的高くなります。夏の終わりから秋にかけて、8月から9月頃に多数の白い小花を茎の先端に集めて咲かせます。

ボウフウは、その自生地や産地によっていくつかのタイプに分類されることがあります。主要なものとしては、中国東北部、内蒙古自治区、河北省、山西省、山東省などを主な産地とする「関防風（かんぼうふう）」、四川省や貴州省を産地とする「川防風（せんぼうふう）」、そして雲南省産の「雲防風（うんぼうふう）」などが挙げられます。日本国内に生薬として輸入され、主に流通しているのは、このうち関防風にあたるものが多いとされています。

この植物が特に重要視されるのは、その根および根茎が乾燥させて生薬「防風（ボウフウ）」として利用される点です。防風は古くから伝統医学において用いられており、特に体を温めて汗を出し、熱を下げる発汗・解熱作用や、痛みを和らげる鎮痛作用があると考えられています。その品質や基準は、日本薬局方にも収載されており、公的に認められた生薬の一つとなっています。

防風は、様々な漢方方剤の重要な構成生薬として配合されています。例えば、皮膚の炎症や化膿などに用いられることで知られる「十味敗毒湯（じゅうみはいどくとう）」や、肥満に伴う動悸や肩こり、便秘などに使われる「防風通聖散（ぼうふうつうしょうさん）」など、広く知られた処方に欠かせない生薬です。かつては内蒙古自治区などで自生している野生品が主に採取・流通していましたが、需要の増加や乱獲などによって野生資源が減少したため、現在では中国各地で栽培されたものが市場の大部分を占めるようになっています。

生薬としての防風には、複数の生理活性成分が含まれています。特に、クロモン類の化合物が多く確認されており、主要な成分としてデルトイン（Deltion）をはじめ、5-O-メチルビサナミノール、5-O-メチルビサナミノールグルコシド、シミブギン（Cimifugin）、シミブギングルコシド、ハマウドール（Hamaudol）、ハマウドールグルコシドなどが挙げられます。これらの成分が複合的に作用し、生薬としての薬効を発揮すると考えられています。

注意すべき点として、和名や地方名に「ボウフウ」という名を含む植物は他にも多数存在しますが、これらのほとんどは本項で解説する防風（Saposhnikovia divaricata）とは分類学的に異なる植物であるということです。例えば、エゾボウフウ、イブキボウフウ、カワラボウフウ、ボタンボウフウ、ハマボウフウ、オランダボウフウ（アメリカボウフウ）などが「○○ボウフウ」と呼ばれます。これらの植物は、セリ科である点は共通しているものの、本種の防風とは属が異なり、その薬用としての性質や成分も全く異なるか、あるいは薬用として利用されないものがほとんどです。したがって、薬用目的で「ボウフウ」を利用する際には、これらの類似名を持つ植物と混同しないよう、正確な種類を区別することが極めて重要となります。

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