内蒙古

内蒙古（うちもうこ/ないもうこ）とは

内蒙古（うちもうこ/ないもうこ）は、清朝時代に「外藩蒙古」に属する諸部族を、地理的に南方に位置するものを指す呼称です。満洲語では「ᡩᠣᠷᡤᡞᠮᠣᠩᡤᠤ」（dorgi monggo）、モンゴル語では「ᠳᠣᠲᠣᠭᠠᠳᠤᠮᠣᠩᠭᠣᠯ」（dotood mongol）、中国語では「内蒙古」（nèiménggŭ）と表記されます。日本語では「南モンゴル」や「漠南モンゴル」と訳されることもあります。

歴史的な背景

「内蒙古」という概念は、19世紀後半に文献に初めて登場しました。伝祁韻士著『皇朝藩部要略』（1839–1845編、1884刊）や張穆『蒙古遊牧記』(1859)などがその例です。しかし、これらの文献での「内蒙古」は、法制上の用語ではなく、あくまで地理的な区分を示すものでした。清朝末期の1908年に編纂された『理藩部則例』では、「内蒙古」という呼称ではなく、「内扎薩克」という用語が用いられています。

清朝のモンゴル支配は、モンゴル人を「八旗蒙古」「内属蒙古」「外藩蒙古」の3種類に区分しました。

八旗蒙古：古くからアイシンギョロ王家に臣従し、満洲人と同等の待遇を受け、官僚として王朝に仕えた人々。
内属蒙古：モンゴル草原の一部で部族組織を維持しつつ、皇帝の直属下におかれた部族。チャハル部と帰化城トメト部が該当。
外藩蒙古：モンゴル草原に部族組織を持ち、モンゴル人貴族の統治を受ける諸部族。

「内蒙古」は、この「外藩蒙古」のうち、南方に位置する部族を指すものでした。

文献に見る「内蒙古」

祁韻士が編纂した『欽定外藩蒙古回部王公表伝』(1779)を元に編纂された『皇朝藩部要略』は、漠北の「外蒙古」と漠南の「内蒙古」の概念を提示した最初の文献とされています。張穆の『蒙古遊牧記』では、「外蒙古」を4部86旗、「内蒙古」を6盟49旗に分類しています。

『蒙古遊牧記』が示す「内蒙古」の6盟は以下の通りです。

1. ジェリム盟
2. ジョソト盟
3. ジョーオダ盟
4. シリンゴル盟
5. ウランチャブ盟
6. イフ・ジョー盟

清朝の法典『理藩部則例』では、「内蒙古」や「外蒙古」という用語は使われず、それぞれ「内扎薩克六盟四十九旗」、「外扎薩克四部落」という呼称が用いられました。

現在の内モンゴル自治区との違い

『蒙古遊牧記』や『理藩部則例』における「内蒙古」は、1947年に設置された内モンゴル自治区よりも領域が狭く、フルンボイルのソロン八旗やオイラト系のアラシャン・オーロト部、エジネ・トルグート部、「内属蒙古」のチャハルなどは含まれていません。

現在の中華人民共和国の「内蒙古自治区」は、モンゴル語の公式呼称は「ウブル・モンゴル」（Өвөр Монгол, Öbür mongɣul）であり、モンゴル語における「内蒙古」の意味合いを引き継いでいますが、歴史的な「内蒙古」とは範囲が異なっています。

まとめ

「内蒙古」は、清朝時代のモンゴル支配における概念であり、現代の内モンゴル自治区とは異なる歴史的な意味合いを持つ言葉です。清朝の文献に登場する「内蒙古」は、「外藩蒙古」のうち南方に位置する部族を指し、地理的な区分を表すものでした。現在の内モンゴル自治区のモンゴル語名称は「ウブル・モンゴル」であり、歴史的な「内蒙古」の意味合いを引き継いでいますが、その領域はより広範囲です。

参考文献

拉巴平錯・陳家璡主編『欽定理藩部則例』北京・全国図書館図書縮微中心、1992

関連項目

外藩蒙古
外蒙古
内モンゴル独立運動
内モンゴル自治区
* 内モンゴル人民共和国

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