ボニー・ジェイムス

ボニー・ジェイムス：スムースジャズ界のサックス・マスター

アメリカ合衆国のサクソフォーン奏者、ソングライター、そして音楽プロデューサーとして知られるボニー・ジェイムスは、1961年9月1日にマサチューセッツ州ローウェルで生を受けました。作曲活動を行う際には、本名を使用しています。彼の妻は女優のリリー・マライエで、テレビドラマ『ER緊急救命室』での看護師役でよく知られています。

幼少期に音楽に触れたボニー・ジェイムスは、まずクラリネットを学び始めましたが、やがてサクソフォーンへと転向し、ピアノの演奏技術も習得しました。高校時代にはバンド活動に熱中し、サックス奏者としてその才能を発揮します。しかし、当初は音楽を職業とするつもりはなく、カリフォルニア大学バークレー校に進学して歴史を専攻しました。両親がロサンゼルスへ移ったことからカリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）に転校し、卒業後もすぐに就職せず、宅配ピザのアルバイトで生計を立てながら音楽活動を続けます。この時期、アイアート・モレイラやイエロージャケッツといった著名アーティストの前座を務めることで、徐々にその名が知られるようになりました。

キャリアの転機が訪れたのは1985年、モーリス・デイのバンドのキーボーディストのオーディションを受けたときのことでした。結果的にキーボーディストとして合格しましたが、モーリス・デイは彼のサクソフォーンの演奏に強い関心を示しました。これにより、ジェイムスはサックス奏者として本格的に脚光を浴び始めます。その後、アイズレー・ブラザーズやランディ・クロフォードといった大物アーティストとの共演機会を得ました。ちなみに、「ボニー」（痩せっぽっち）というニックネームは、ランディ・クロフォードとの北米ツアー中、物価の高さに驚いて「痩せそうだ」とこぼしたことから付けられたと言われています。

ボビー・コールドウェルのバックミュージシャンとして活動していた頃、彼のエンジニアを務めていたポール・ブラウンがジェイムスの才能を見出しました。ポールのプロデュースにより、1992年にインディーズレーベル「Spindletop」から、ボニー・ジェイムス名義での最初のアルバム『トラスト』がリリースされます。マイナーレーベルからの発表にもかかわらず、このアルバムはビルボードのコンテンポラリー・ジャズ・チャートで40位圏内に入ると、最終的には8位まで上昇するヒットとなり、ラジオでも頻繁にオンエアされました。この成功を受け、『トラスト』は後にワーナー・ブラザース・レコードより再リリースされています。

デビュー作の好評が後押しとなり、ジェイムスはワーナー・ブラザース・レコードと契約を結びます。1994年にはセカンドアルバム『バックボーン』を発表。続く1995年の3枚目のアルバム『セダクション』は、ビルボードチャートで最高3位を記録し、ラジオ＆レコードNACチャートでは17週間にわたりトップの座を維持するなど、商業的に大きな成功を収め、ゴールドディスクも獲得しました。1996年にはクリスマスアルバム『ボニース・ファンキー・クリスマス』をリリース。この作品には、かつて共に活動したボビー・コールドウェルがゲスト参加し、ビルボードチャートで4位となりました。1997年発表の『スウィート・シング』は、翌年にニュー・エディション版も登場しています。

2000年にはトランペッターのリック・ブラウンとの共作アルバム『シェイク・イット・アップ』を発表。このアルバムでは、ヒュー・マセケラの「Grazin' in the Grass」や、スムースジャズとしては珍しいホレス・シルヴァー作のジャズスタンダード「Song For My Father」といった意欲的なカバーを収録し、フォープレイもゲスト参加しています。2001年のアルバム『Ride』はR&B色がより強く打ち出された作品となりました。これらのアルバムまでポール・ブラウンがプロデュースを手がけていましたが、2004年発表の『Pure』ではジェイムス自身がセルフプロデュースに挑戦しています。

注目すべきは、『スウィート・シング』から『Pure』までの5枚のオリジナルアルバムすべてが、チャートで1位を獲得したという偉業です。また、『Ride』と『Pure』の2作で、グラミー賞にノミネートされるなど、批評的な評価も高まりました。2006年には長年在籍したワーナーを離れ、コンコード・レコードへ移籍。『シャイン』(2006年)、『クリスマス・プレゼント』(2007年)、『センド・ワン・ユア・ラヴ』(2009年)といった作品をコンコードからリリースしました。2011年にはVerve Forecatsより『Contact』を発表後、2013年には再びコンコードに戻り、『ザ・ビート』をリリース。このアルバムのタイトル曲は、ブラジルの音楽家マルコス・ヴァーリの「Batucada」のカバーとなっています。その後もコンコードから『Futuresoul』(2015年)、『Honestly』(2017年)、『Solid』(2020年)、『Detour』(2022年)など、コンスタントに作品を発表し、現在もスムースジャズシーンの第一線で活躍を続けています。

ボニー・ジェイムスは、その温かくメロディアスなサックスの音色と、ジャズ、R&B、ポップスをクロスオーバーさせた洗練されたサウンドで、多くのリスナーを魅了し続けています。ソングライターやプロデューサーとしても才能を発揮し、スムースジャズというジャンルを確立し牽引してきた重要なアーティストの一人と言えるでしょう。

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