ボリス・チャイコフスキー

ボリス・アレクサンドロヴィッチ・チャイコフスキー

ボリス・アレクサンドロヴィッチ・チャイコフスキー（1925年9月10日 - 1996年2月7日）は、ソヴィエト連邦時代からロシア連邦にかけて活動した、20世紀後半を代表する作曲家の一人です。しばしば同姓のピョートル・イリイチ・チャイコフスキーと混同されがちですが、両者の間に血縁関係はありません。

彼はモスクワで生まれ、幼い頃から音楽の才能を示しました。音楽教育はモスクワ音楽院で受け、著名な教授陣に師事しています。ピアノをレフ・オボーリンに、作曲をヴィッサリオン・シェバリーン、ニコライ・ミャスコフスキーといった大家に学び、さらにドミートリイ・ショスタコーヴィチの薫陶も受けています。これらの師事経験は、彼の音楽様式に多様な影響を与えたと考えられます。

音楽院卒業後は一時ラジオ局に勤務しますが、1952年からは専業の作曲家として活動を開始しました。その創作活動は多岐にわたり、交響曲や室内楽、声楽曲など幅広いジャンルで作品を生み出しています。

チャイコフスキーの評価は、ロシア国内とその他の国々で大きな隔たりがあることで知られています。ロシアでは彼の死後も一定の人気を保ち、その作品は演奏され続けていますが、国外、特に欧米での認知度は長く限られたものでした。名チェリストであるムスティスラフ・ロストロポーヴィチは彼の才能を高く評価し、積極的に作品を取り上げ、特に米国への紹介を試みましたが、期待したほどには評価が広がりませんでした。このような状況が、国内外での評価差を生む一因となったと言われています。

しかし、21世紀に入り、彼の没後約10年を経過した2005年頃から、国際的に再評価の動きが活発化してきました。米国を含む各地で、彼の作品が続々とCD化されるようになったのです。例えば、長年にわたり親交のあった指揮者ウラジミール・フェドセーエフがモスクワ放送交響楽団を指揮した録音などがリリースされ、彼の音楽に触れる機会が増えています。

チャイコフスキーとロストロポーヴィチの親交は非常に深く、その音楽にも反映されています。チャイコフスキーが作曲したチェロを主要楽器とする作品は、知られている限り3曲全てがロストロポーヴィチに献呈されています。中でも1966年に作曲された「チェロ、ピアノ、ハープシコード、エレクトリックギターと打楽器のためのパルティータ」は、ロストロポーヴィチ自身の依頼によって書かれたものです。ロストロポーヴィチは、1970年代にEMIからリリースした自身の13枚組レコード作品集の中で、1枚全体をボリス・チャイコフスキーの作品に充てるほど、彼への敬意と信頼を示していました。

彼の作品創作の中でも特筆すべきは、映画やラジオドラマのための付随音楽の多さです。生涯に30曲以上の付随音楽を手がけており、これは器楽や声楽曲の数を凌駕しています。これらの作品は、当時のソヴィエト社会における芸術家の役割を示すとともに、彼の多才さを示すものです。日本との縁では、1974年に公開された日本・ソビエト合作映画で、栗原小巻主演の『モスクワわが愛』の音楽を担当しています。

主要な作品としては、以下のようなものが挙げられます。

セヴァストーポリ交響曲（1980年）
交響曲第1番（1947年）
交響詩「シベリアの風」（1984年）
無伴奏チェロ組曲 ニ短調（1960年） - ロストロポーヴィチに献呈・初演
チェロ協奏曲（1964年） - ロストロポーヴィチに献呈・初演
チェロ、ピアノ、ハープシコード、エレクトリックギターと打楽器のためのパルティータ（1966年） - ロストロポーヴィチの依頼により作曲、彼に献呈・初演
カンタータ「黄道十二宮」（1974年）
メゾソプラノとヴィオラのための「キップリングから」（1994年）

ボリス・チャイコフスキーは、ソヴィエト時代後期からポスト・ソヴィエト期にかけて活動した重要な作曲家であり、その独自の音楽言語は、国内外での再評価が進むにつれて、さらに広く認識されることとなるでしょう。

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