ボルシッパ

ボルシッパ：古代メソポタミアの都市遺跡

ボルシッパ（Borsippa）は、古代メソポタミアの重要な都市の一つで、現在のイラク中部に位置するビルス・ニムルド（Birs Nimrud）がその遺跡にあたります。バビロンの南西約20キロメートルに位置し、ユーフラテス川の東岸にありました。かつては都市の北から西にかけて湖が広がっており、「海の角」を意味するシュメール語名（Ba-ad-DUR-si-a-ab-ba）は、その地形に由来すると考えられています。

歴史

ボルシッパは、ウル第三王朝時代からセレウコス朝時代、そしてイスラム教初期に至るまで、バビロンとの関係において様々な記録に登場します。常にバビロンに服属する都市であり、独自の王都となることはありませんでした。紀元前9世紀以降は、バビロニア南部がカルデア人の地域となっていきました。

都市神はナブー（Nabu）で、エジダ神殿（E-zida、「正しい家」）に祀られていました。ナブーはアモリ人起源の神で、バビロニアに入り、書記の守護神となりました。当初はバビロンの都市神マルドゥック（Marduk）の家臣でしたが、後に息子とみなされるようになり、ボルシッパはバビロンの弟分のような位置づけとなりました。バビロニアの新年祭では、ナブーがボルシッパからバビロンへ向かう行事が行われていました。

ウル第三王朝時代には、ボルシッパはトゥトゥ神（ナブーの別名）崇拝の中心地でしたが、後に都市神はナブーへと変わりました。「昼の太陽の街」バビロンに対し、ボルシッパは「夜の太陽の街」とされ、バビロンと同様の建物や行列道路が築かれ、対となる存在でした。バビロンとボルシッパは運河で結ばれ、ボルシッパは亜麻布の産地として知られていました。また、多くのコウモリが生息していたことでも知られています。

遺跡

ボルシッパの遺跡で最も印象的なのは、巨大なジッグラトの廃墟です。19世紀半ばにヘンリー・ローリンソンによって調査が開始され、その後もイギリスの考古学者らによって調査が行われてきました。1980年からは、オーストリアのインスブルック大学が主導する調査チームが組織的な調査と発掘を行っていましたが、イラク戦争によって中断されました。イラク戦争後、遺跡の警備が行き届かず、組織的な盗掘が報告されています。

ボルシッパからは、法律、行政、天文学などに関する楔形文字が刻まれた多数の粘土板が出土していますが、その多くは盗掘され、闇市場に流出しています。ボルシッパの最盛期を築いたネブカドネザル2世の碑文（ボルシッパ碑文）には、彼がナブー神の「七層の神殿」を「尊いラピスラズリのレンガ」で修復した様子が記されています。これは、青色の釉薬をかけた彩色レンガを用いて神殿を装飾したことを示唆しています。

オーストリアの考古学調査班は、ネブカドネザルのジッグラトが紀元前2千年紀に遡る小さな塔の廃墟を包むようにして建てられたと推定しています。完成時には高さ70メートルに達し、七層構造だったと考えられています。廃墟となった現在でも、ジッグラトは地上から52メートルの高さでそびえ立っています。碑文が刻まれた神殿の礎石も発掘されており、ネブカドネザル2世がバビロンのジッグラト（現在は基礎のみ）と同じ設計でボルシッパのジッグラトを設計したことが記されています。別の碑文には、ネブカドネザル2世がナブーの塔を天に届かせようと宣言したとも記されています。

エジダ神殿には図書館があったと考えられています。ニネヴェに大図書館を築いたアッシュールバニパル王は、諸都市から貴重な書籍を集めさせましたが、その命令文にはエジダ神殿も含まれていました。考古学者たちは、これまでに見つかった粘土板文書に加えて、神殿付属の図書館や文書庫が遺跡内に埋まっているとみて、発掘調査を続けています。

もう一度検索