ポリュポンテース

ポリュポンテース（古希: Πολυφόντης, Polyphontēs）は、古代ギリシアの神話世界に登場する同名を持つ複数の人物を指します。長音を省略してポリュポンテスと表記されることもあります。彼らはそれぞれ異なる物語の中で役割を果たしており、主に以下の人物が知られています。

メラムプース伝説に登場する王

ヘーシオドスの詩作とされる『大エーホイアイ』に語られるポリュポンテースは、ある国の王でした。彼が神々への犠牲を捧げていた際、祭壇に近づいた一匹の蛇を召使いたちが殺してしまいます。このとき王のもとに滞在していた予言者メラムプースは、その蛇を丁寧に葬るだけでなく、残された幼い蛇の子を育てました。このメラムプースの行動を見た王は当初怒りを示しましたが、成長した蛇の子たちは恩返しとしてメラムプースの耳を舐めて清め、鳥や昆虫の声を聞き取る能力、すなわち未来を予知する力を授けたと伝えられています。

テーバイ王ラーイオスの伝令使

テーバイの王ラーイオスに仕えた伝令使もまたポリュポンテースという名でした。ある日、ラーイオスが戦車で移動中、狭い山道で反対からやってきた男と進路を巡って争いになります。この男こそ、かつてラーイオスが予言を恐れて捨てた息子オイディプースでした。オイディプースはコリントスの王宮で育てられた後、デルポイの神託により父を殺し母と結ばれる運命を知り、コリントスへ戻らずテーバイへ向かう旅の途中だったのです。ポリュポンテースはラーイオスを庇い、道を譲らないオイディプースの戦車を引く馬を殺してしまいます。これに激怒したオイディプースは、伝令使ポリュポンテースと王ラーイオスを殺害しました。この事件は、後にオイディプースがテーバイでスピンクスを退治し、自らの母とも知らずに王妃イオカステーと結婚するという悲劇の発端となります。

アウトポノスの子

テーバイを攻撃した「七将」の物語に登場するポリュポンテースは、アウトポノスの子とされています。ホメーロスの叙事詩『イーリアス』の中で、ミュケーナイ王アガメムノーンが勇将ディオメーデースに語りかける言葉の中で、その父テューデウスの武勇伝として語られています。テーバイ遠征軍がアーソーポス川まで進んだ際、テューデウスは使者としてテーバイ市内に派遣されました。彼はそこで開かれていた宴に招かれ、力の競い合いで全ての競技に勝利しました。これに屈辱を感じたテーバイの人々は、テューデウスを待ち伏せして殺害しようと、ハイモーンの子マイモーンとポリュポンテースに指揮された50人の兵士からなる部隊を差し向けました。しかし、テューデウスは圧倒的な強さで反撃し、マイモーンを除く全ての敵兵を討ち取りました。ポリュポンテースもこの時テューデウスによって討たれた50人の中に含まれていたと考えられています。

ヘーラクレイダイの1人

ヘーラクレイダイ、すなわち大英雄ヘーラクレースの子孫たちの一人にもポリュポンテースという人物がいます。彼はヘーラクレースの真の後裔でしたが、メッセニア地方を支配していたヘーラクレイダイの嫡流の王クレスポンテースとその息子たちを殺害し、非道にも王位を奪いました。さらに、ポリュポンテースはクレスポンテースの未亡人メロペーを、彼女の強い意志に反して無理やり妻としました。しかし、メロペーは夫の遺児（アイピュトスあるいはテーレポンテース）を密かに国外へ逃がしており、ポリュポンテースがその行方を懸命に探しても見つけ出すことはできませんでした。後に成長した遺児が帰還し、父の仇であるポリュポンテースを討って王位を取り戻しました。

この他にも、テーバイが七将に攻撃された際に、エーレクトライ門の防御を命じられた人物としてポリュポンテースの名が挙げられることがありますが、これはアウトポノスの子と同一人物である可能性が指摘されています。

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