ポンペイの壁画の様式

ポンペイの壁画様式：古代ローマの美意識の変遷

ポンペイの壁画様式は、古代ローマの壁面装飾を、おおまかに時代ごとの4つの様式に分類したものです。この分類は、ドイツの考古学者アウグスト・マウによって提唱され、壁画の様式を分析することで、西暦79年のヴェスヴィオ火山の噴火以前の数世紀にわたる建物や装飾の年代を特定するのに役立っています。様式の変遷は、ギリシア的な写実主義と、イタリア的な伝統やオリエントの影響を受けた装飾主義との間の緊張関係を反映しています。

第一様式：漆喰装飾様式

「第一様式」は、前2世紀から前80年頃に見られます。「漆喰装飾様式」や「外被様式」とも呼ばれ、大理石を模倣したトロンプ・ルイユ（騙し絵）的な表現が特徴です。大理石の模様のほか、アラバスターの円盤や木製の梁、白い支柱などが描かれ、エジプトのプトレマイオス朝の宮殿を模倣したものです。この様式は、ローマがギリシアやヘレニズム諸国との交流や征服を通じて広まったヘレニズム文化の影響を示しています。ヘルクラネウムのサムニウム人の家には、この様式の壁画の例が残っています。

第二様式：建築様式

前1世紀には、「第二様式」または「建築様式」が主流になります。壁面は、建物の構成要素やトロンプ・ルイユ的な構図で装飾されます。初期には第一様式の要素も残っていましたが、次第に置き換えられていきました。この様式では、対象物に陰影をつけて立体的に見せる工夫が凝らされており、例えば、立体的に描かれた柱で壁面を分割するなどして、空間の奥行きを演出しています。

また、平行投影法（正確な線遠近法ではない）を用いて、トロンプ・ルイユ的な効果を追求しています。イオニア式の柱や舞台のような建築物を描くことで、壁面の後方に空間が広がっているように見せ、狭い部屋を広く感じさせる効果がありました。前90年頃には具体的な対象や風景が導入され、前70年頃には建築物やイリュージョニスティックなモチーフが主流となりました。壁画は、奥行きを最大限に感じさせることが重視され、モチーフは分割された画面の高い位置に描かれました。前50年以降は、神話の舞台となる風景を背景に、演劇のマスクや飾りが描かれるようになります。

アウグストゥスの治世下で、この様式はさらに発展し、建築要素を用いて空間を拡張し、美的構図が形成されました。中央に大きな絵、両翼に二つの小さな絵を配した舞台装置に似た構成が発展しました。この構成では、建築要素や風景を用いて壁面を解放しようとするイリュージョニスティックな傾向が共通しています。風景は壁面全体に広がり、枠の役割をしていた建築構造物は消え、まるで部屋の外の景色を眺めているかのような感覚を生み出しました。この様式では、白、赤、黄、緑、マゼンタなどの色がよく用いられました。前40年代に流行し、前10年代には下火となりました。ボスコレアーレのプブリウス・ファンニウス・シュニストル荘の壁画には、この様式の代表的な例が見られます。

第三様式：装飾様式

「第三様式」は、前時代の厳格さに対する反動として、前20年頃または前10年頃に始まりました。色彩豊かな人物や装飾的なモチーフが登場し、より装飾的な印象を与えます。この様式は、イリュージョニスティックな手法からの脱却を特徴としますが、後には再び装飾的な要素として蘇ります。

第三様式の絵画は、中央の要素によって決定付けられるシンメトリーの原則に厳密に従っており、水平方向に三つの領域、垂直方向に三つまたは五つの領域に分割されていました。水平方向には、幾何学模様、柱の台座、燭台にかけられた細い枝葉の帯などで区切られ、鳥などの優美なモチーフや空想的な動物が背景に描かれています。植物や、特にエジプトの動物がよく描かれ、これは、アウグストゥスがクレオパトラを破ってエジプトを併合した後のエジプト趣味を反映しています。これらの絵画では、第二様式の三次元的な表現に代わり、主に単色の優美な線描で描かれた空想的なもので装飾されています。プリマ・ポルタのリウィア荘には、この様式の例が見られます。ボスコトレカーセのアグリッパ・ポストゥムス荘の寝室にも、同様の様式の絵画が見られます。

第三様式は、ローマでは40年頃まで、ポンペイでは60年頃まで見られました。

第四様式：装飾様式

「第四様式」または「装飾様式」は、ポンペイで大地震が起きた62年以降の様式で、ベスビオ火山が噴火した79年まで続きました。第三様式よりもさらに装飾性が強まり、建築要素が多く描かれるようになります。幻想的な傾向と、細かく繊細な描写、濃い色彩が特徴です。

ポンペイのウェッティの家には、第四様式の作例を見ることができます。

まとめ

ポンペイの壁画様式は、古代ローマの美術と文化を理解する上で非常に重要な資料です。各様式の変遷を追うことで、当時の人々の美意識や生活様式を垣間見ることができます。それぞれの様式が持つ特徴を理解することで、古代ローマ美術の多様性と奥深さをより深く味わえるでしょう。

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