ポール・クイニシェット

ポール・クイニシェット

ポール・クイニシェット（Paul Quinichette、1916年5月17日 - 1983年5月25日）は、アメリカ合衆国の著名なジャズ・テナー・サクソフォーン奏者です。彼のキャリアは、特に同時代の偉大なテナー奏者、レスター・ヤング（愛称「プレジデント」または「プレズ」）の洗練されたスタイルを深く模倣し、継承したことで知られています。この敬愛と影響ゆえに、クイニシェット自身は「ヴァイス・プレジデント（副大統領）」、あるいは略して「ヴァイス・プレズ」というニックネームで親しまれました。一方、ヤングは彼を愛情を込めて「レディQ」と呼んでいたと伝えられています。

生涯とキャリア

クイニシェットはコロラド州デンバーで生を受けました。幼少期から音楽に親しみ、当初はクラリネットやアルト・サクソフォーンを学びましたが、後にテナー・サクソフォーンへと転向します。13歳という若さで、彼は既にジャズ界で名を馳せていたレスター・ヤングから非公式ながら指導を受ける機会に恵まれました。教育においては、デンバー大学で学び、一時テネシー州立大学へ転校した後、再びデンバー大学に戻り、音楽の学位を取得しています。学生時代から地元のバンドで演奏活動を行い、夏休みにはナット・タウルズやロイド・ハンターといったミュージシャンとのツアーを経験し、キャリアの基礎を築きました。

プロとしての活動は1930年代後半に本格化し、ショーティ・シェロックとの共演を経て、1940年代初頭にはアーニー・フィールズやジェイ・マクシャンといったバンドリーダーの下で経験を積みました。1945年から1947年にかけては、西海岸でジョニー・オーティスと共に活動。その後、1947年にルイ・ジョーダンに伴ってニューヨークへと進出し、ジャズの中心地での地位を確立します。ニューヨークでは様々なセッションに参加した後、1951年にジャズ界の巨人、カウント・ベイシー率いるオーケストラに加入。この2年間は彼のキャリアにおいて重要な時期であり、ベイシー楽団での活動を通じてその名声を高めました。エマーシー・レコードからの自身のリーダーアルバムが成功を収めた後、彼はベイシーのもとを離れて自身のグループを結成します。

1950年代半ばから後半にかけて、クイニシェットはリーダーとして、またサイドマンとして精力的に活動しました。特にボーカリストのダイナ・ワシントンとのエマーシーでの録音は高く評価されています。また、ベニー・グッドマンやナット・ピアース（いずれも1955年）、ジョン・コルトレーン（1957年）、そしてビリー・ホリデイといったジャズ界のレジェンドたちとも共演しています。しかし、1960年代に入ると健康上の問題を抱えるようになり、音楽活動を続けることが困難となりました。この時期、彼は一時的に電気技師として生計を立てていました。音楽から離れていた期間もありましたが、1973年には体調の回復に伴い、以前ほどの頻度ではないものの、再び演奏活動を再開しました。ポール・クイニシェットは、1983年5月25日にニューヨークでその生涯を終えました。

演奏スタイル

クイニシェットのテナー・サクソフォーン演奏は、レスター・ヤングの優美でリラックスしたスタイルを色濃く反映していることで知られています。音楽評論家からは、特にそのスウィング感が高く評価され、『ニューグローヴ世界音楽大事典』では、「ヤングに続くミュージシャンの中でも比類のないスウィング感を示していた」と評されています。ただし、1959年にジョン・S・ウィルソンが記した評論によれば、カウント・ベイシー楽団を離れて以降、クイニシェットのスタイルには、ヤングからの影響に加え、イリノイ・ジャケーのようなより力強く直接的なトーンやアプローチ、あるいは「俗悪さ」といった側面も垣間見られるようになったと指摘されています。

主要ディスコグラフィ

以下に、ポール・クイニシェットの主要なリーダー・アルバムおよび代表的な参加アルバムをいくつか挙げます。

リーダー・アルバム:

『ザ・ヴァイス・プレス』 (The Vice Pres, 1954年、Emarcy)
『ムーズ』 (Moods, 1955年、EmArcy)
Blow Your Horn (1956年、Brunswick)
『ザ・キッド・フロム・デンヴァー』 (The Kid From Denver, 1956年、Dawn)
『オン・ザ・サニー・サイド』 (On the Sunny Side, 1957年、Prestige)
『ザ・チェイス・イズ・オン』 (The Chase Is On, 1957年、Bethlehem) ※with チャーリー・ラウズ
『フォー・ベイシー』 (For Basie, 1957年、Prestige) ※ベイシー楽団のメンバーと共演
『ベイシー・リユニオン』 (Basie Reunion, 1958年、Prestige) ※ベイシー楽団のOBと共演
『キャッティン・ウィズ・コルトレーン・アンド・クイニシェット』 (Cattin' with Coltrane and Quinichette, 1959年、Prestige) ※with ジョン・コルトレーン
『ライク・ベイシー』 (Like Basie!, 1959年、United Artists)
『プレヴュー』 (Prevue, 1974年、Famous Door) ※with ブルックス・カー

参加アルバム:

カウント・ベイシー: Basie Jazz (1954年)、Dance Session Album No. 2 (1954年)、The Count! (1955年)、The Swinging Count! (1956年)
ビリー・ホリデイ: 『アン・イヴニング・ウィズ・ビリー・ホリデイ』 (1953年)、『ビリー・ホリデイ物語 - レディ・シングズ・ザ・ブルース』 (1956年)
サラ・ヴォーン: 『サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン』 (1954年)
ダイナ・ワシントン: Blazing Ballads (1952年)、『アフター・アワーズ・ウィズ・ミス・"D"』 (1954年)
ジョン・コルトレーン: 『ホイーリン&ディーリン』 (Wheelin' & Dealin', 1957年) ※プレスティッジ・オールスターズ名義
* ジェイ・マクシャン: 『ラスト・オブ・ザ・ブルー・デヴィルズ』 (1978年)

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