ポー・カレン族
ポー・カレン族（Pwo Karen people）は、ミャンマーとタイを中心に暮らすカレン族の主要な一派です。彼らは自らを「プロン」（Plone）と称しています。1990年代初頭のデータによれば、カレン族全体の人口は約286万人に達しており、その中でポー・カレン族はほぼ半数を占めている可能性が指摘されています。これは、ポー・カレン族がカレン族全体の民族構成において、非常に重要な位置を占めていることを示しています。
ことばの世界
ポー・カレン族は、独自の「ポー・カレン語」を使用しています。この言語には、主に東部ポー・カレン語と西部ポー・カレン語という大きな区分が存在します。東部ポー・カレン語は、カレン州、モン州、タニンダーリ地方域といった地域で話されており、特にカレン州の州都パアンでは主要なコミュニケーション手段となっています。一方、西部ポー・カレン語は、主にエーヤワディ・デルタ地方で用いられています。これら二つの言語は、文法や語彙において類似点が多く方言に近い関係にあるとされますが、声調の違いなどから、話者間の相互理解は難しいとされています。さらに、モン州のビリン郡区で使われるトークリバン・ポー・カレン語や、北部ポー・カレン語といった、これらの主要なポー・カレン語とも相互理解性の低い言語の存在も報告されており、ポー・カレン語の多様性がうかがえます。
ポー・カレン語を書き表すための文字体系としては、主に二種類が存在します。一つは「仏教ポー・カレン文字」で、これはおそらくモン文字から自然に発展したものではないかと考えられています。文字と発音の対応関係から、18世紀から19世紀にかけて形成されたものと推測する研究者もいます。もう一つは「キリスト教ポー・カレン文字」です。これは19世紀半ば、アメリカの宣教師ジョナサン・ウェイドが東部ポー・カレン語への聖書翻訳を行う際に考案した表記法です。興味深いことに、東部ポー・カレン語と西部ポー・カレン語の間には規則的な音韻対応があるため、西部ポー・カレン語を話す人々も、このキリスト教ポー・カレン文字で書かれた東部ポー・カレン語の聖書を利用することがあります。
ミャンマーにおいては、カレン族はしばしばポー・カレン族とスゴー・カレン族という二つの主要なグループで構成されていると認識されることが多いです。多様な方言を含むカレン諸語の中で、ポー・カレン語とスゴー・カレン語の正書法が比較的早期に確立されたことが、この二つの言語を話す人々を「カレンという民族を構成する二大要素」とする観念を生み出した、と指摘する研究者（池田一人）もいます。また、言語学的な観点からも、ポー語とスゴー語は数あるカレン諸語の中でも特に近縁関係にあり、この二つの言語を中心に「カレン族」という概念が形作られていったことは妥当である、という見解（加藤昌彦）も示されています。
豊かな文化と信仰
ポー・カレン族の文化は非常に多様です。その中でも、宗教と伝統的な舞踊は特筆すべき要素です。
宗教
カレン族全体において、仏教徒はスゴー・カレン族の中にも存在しますが、ポー・カレン族の間で仏教の信仰は特に強く、仏教徒カレンの中心的存在と言えます。カレン州の平野部に住むポー・カレン族は、古くから仏教徒である隣接するモン族との深いつながりを持ってきました。19世紀中頃に書かれたとみられる、仏教ポー・カレン文字で記された貝葉の経典が現存しており、その信仰の歴史の深さを示しています。カレン仏教の中心地はパアン地方とされています。伝説によれば、パガン王朝時代にタトンでモンの王に仕えていたという「プーダイコー」という人物が、仏教の聖典である大蔵経をポー・カレン語に翻訳・要約したと伝えられています。また、18世紀には「プー・タマイッ」というポー・カレン族の僧侶が仏教の定着に大きく貢献したとされていますが、これらの話はいずれも伝説の域を出ず、歴史的な詳細は不明な点が多いです。このプー・タマイッは、仏教ポー・カレン文字の発明者である可能性も指摘されています。
一方、キリスト教の布教は19世紀に始まりました。特にアメリカの宣教師たちの活動により信仰が広まり、前述のジョナサン・ウェイドによる翻訳を経て、1852年にはポー・カレン語の聖書が出版されています。現在も、多くのポー・カレン族がキリスト教を信仰しています。
民族舞踊 ドン・ダンス
ポー・カレン族の文化を象徴するもののひとつに、「ドン・ダンス」（Don dance）と呼ばれる伝統的な民族舞踊があります。これは、男女が整然と隊列を組み、歌に合わせて踊る形式の舞踊です。ドン・ダンスは単なる娯楽ではなく、コミュニティのメンバーがお互いの絆を深め、連帯感を育むための重要な手段として発展してきました。その象徴性の高さから、ドン・ダンスはポー・カレン族だけでなく、やがてカレン族全体の文化的シンボルとしても広く認識されるようになり、現在ではスゴー・カレン族の中にもドン・ダンスの踊り手が現れています。この舞踊は、カレン族の祭りや集会において、世代を超えて受け継がれ、共同体のアイデンティティを確認する場となっています。
まとめ
ポー・カレン族は、カレン族という大きな枠組みの中で、独自の言語（ポー・カレン語の多様性、複数の文字）、深く根付いた仏教信仰（伝説や歴史的な伝承を含む）、そして共同体の絆を象徴するドン・ダンスといった豊かな文化を持つ主要なグループです。彼らの言語や文化は、カレン族全体の概念形成にも影響を与えてきました。ミャンマーとタイにおける彼らの存在は、カレン族の多様性と複雑性を理解する上で欠かせないものです。彼らは独自のアイデンティティを保ちつつ、カレン族全体の一部として、その歴史と文化を継承し続けています。
ことばの世界
ポー・カレン族は、独自の「ポー・カレン語」を使用しています。この言語には、主に東部ポー・カレン語と西部ポー・カレン語という大きな区分が存在します。東部ポー・カレン語は、カレン州、モン州、タニンダーリ地方域といった地域で話されており、特にカレン州の州都パアンでは主要なコミュニケーション手段となっています。一方、西部ポー・カレン語は、主にエーヤワディ・デルタ地方で用いられています。これら二つの言語は、文法や語彙において類似点が多く方言に近い関係にあるとされますが、声調の違いなどから、話者間の相互理解は難しいとされています。さらに、モン州のビリン郡区で使われるトークリバン・ポー・カレン語や、北部ポー・カレン語といった、これらの主要なポー・カレン語とも相互理解性の低い言語の存在も報告されており、ポー・カレン語の多様性がうかがえます。
ポー・カレン語を書き表すための文字体系としては、主に二種類が存在します。一つは「仏教ポー・カレン文字」で、これはおそらくモン文字から自然に発展したものではないかと考えられています。文字と発音の対応関係から、18世紀から19世紀にかけて形成されたものと推測する研究者もいます。もう一つは「キリスト教ポー・カレン文字」です。これは19世紀半ば、アメリカの宣教師ジョナサン・ウェイドが東部ポー・カレン語への聖書翻訳を行う際に考案した表記法です。興味深いことに、東部ポー・カレン語と西部ポー・カレン語の間には規則的な音韻対応があるため、西部ポー・カレン語を話す人々も、このキリスト教ポー・カレン文字で書かれた東部ポー・カレン語の聖書を利用することがあります。
ミャンマーにおいては、カレン族はしばしばポー・カレン族とスゴー・カレン族という二つの主要なグループで構成されていると認識されることが多いです。多様な方言を含むカレン諸語の中で、ポー・カレン語とスゴー・カレン語の正書法が比較的早期に確立されたことが、この二つの言語を話す人々を「カレンという民族を構成する二大要素」とする観念を生み出した、と指摘する研究者（池田一人）もいます。また、言語学的な観点からも、ポー語とスゴー語は数あるカレン諸語の中でも特に近縁関係にあり、この二つの言語を中心に「カレン族」という概念が形作られていったことは妥当である、という見解（加藤昌彦）も示されています。
豊かな文化と信仰
ポー・カレン族の文化は非常に多様です。その中でも、宗教と伝統的な舞踊は特筆すべき要素です。
宗教
カレン族全体において、仏教徒はスゴー・カレン族の中にも存在しますが、ポー・カレン族の間で仏教の信仰は特に強く、仏教徒カレンの中心的存在と言えます。カレン州の平野部に住むポー・カレン族は、古くから仏教徒である隣接するモン族との深いつながりを持ってきました。19世紀中頃に書かれたとみられる、仏教ポー・カレン文字で記された貝葉の経典が現存しており、その信仰の歴史の深さを示しています。カレン仏教の中心地はパアン地方とされています。伝説によれば、パガン王朝時代にタトンでモンの王に仕えていたという「プーダイコー」という人物が、仏教の聖典である大蔵経をポー・カレン語に翻訳・要約したと伝えられています。また、18世紀には「プー・タマイッ」というポー・カレン族の僧侶が仏教の定着に大きく貢献したとされていますが、これらの話はいずれも伝説の域を出ず、歴史的な詳細は不明な点が多いです。このプー・タマイッは、仏教ポー・カレン文字の発明者である可能性も指摘されています。
一方、キリスト教の布教は19世紀に始まりました。特にアメリカの宣教師たちの活動により信仰が広まり、前述のジョナサン・ウェイドによる翻訳を経て、1852年にはポー・カレン語の聖書が出版されています。現在も、多くのポー・カレン族がキリスト教を信仰しています。
民族舞踊 ドン・ダンス
ポー・カレン族の文化を象徴するもののひとつに、「ドン・ダンス」（Don dance）と呼ばれる伝統的な民族舞踊があります。これは、男女が整然と隊列を組み、歌に合わせて踊る形式の舞踊です。ドン・ダンスは単なる娯楽ではなく、コミュニティのメンバーがお互いの絆を深め、連帯感を育むための重要な手段として発展してきました。その象徴性の高さから、ドン・ダンスはポー・カレン族だけでなく、やがてカレン族全体の文化的シンボルとしても広く認識されるようになり、現在ではスゴー・カレン族の中にもドン・ダンスの踊り手が現れています。この舞踊は、カレン族の祭りや集会において、世代を超えて受け継がれ、共同体のアイデンティティを確認する場となっています。
まとめ
ポー・カレン族は、カレン族という大きな枠組みの中で、独自の言語（ポー・カレン語の多様性、複数の文字）、深く根付いた仏教信仰（伝説や歴史的な伝承を含む）、そして共同体の絆を象徴するドン・ダンスといった豊かな文化を持つ主要なグループです。彼らの言語や文化は、カレン族全体の概念形成にも影響を与えてきました。ミャンマーとタイにおける彼らの存在は、カレン族の多様性と複雑性を理解する上で欠かせないものです。彼らは独自のアイデンティティを保ちつつ、カレン族全体の一部として、その歴史と文化を継承し続けています。
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