マイカル・ジャッジ

マイカル・ジャッジ師の生涯と奉仕

マイカル・ジャッジ（本名ロバート・エメット・ジャッジ）師は、1933年5月11日にニューヨーク市ブルックリンで、アイルランドからの移民を両親に持つ長男として生を受けました。二卵性双生児の姉ディンプナは2日遅れ、さらに姉エリンもいました。大恐慌の時代に育ったジャッジ師は、幼い頃に辛い病に苦しんだ父が亡くなる姿を目の当たりにします。父の死後、家計を助けるため、教会近くの駅で靴磨きをして過ごしました。この経験を通して、物質的なものへの執着が薄れ、修道士への道を強く意識するようになったと後に語っています。

聖職への道のりとキャリア

青年期をブルックリンの聖フランシス高校で過ごした後、15歳でフランシスコ会に入会。全寮制の神学校を経て、聖ボナヴェンチュア大学で学びました。1954年に修道会の一員として正式な宣誓をし、洗礼名としてファロン・マイケルを名乗ります（後にマイケルをゲール語風のマイカルに改名）。1958年には完全な修道会メンバーとしての誓いを立て、神学を修めた後、1961年に司祭に叙階されました。叙階後は、マサチューセッツ州ボストンの聖アントニー教会をはじめ、ニュージャージー州やニューヨーク市ブロンクス区のいくつかの小教区で司牧を務めました。シエナ大学学長補佐を経て、1986年には幼少期に縁のあったマンハッタンのアッシジのフランシスコ教会に戻り、晩年までこの地で奉仕を続けました。

苦難の克服と弱者への献身

1970年代にはアルコール依存症に苦しみますが、1978年にアルコホーリクス・アノニマスの助けを得て回復。自身の経験を活かし、依存症に悩む他の人々を熱心に支援しました。1992年からはニューヨーク市消防局（FDNY）のチャプレンを務め、火災現場や救急活動の最前線で消防士やその家族を精神的に支えました。時には一日16時間も働き、彼らを励まし、祈りを捧げ、カウンセリングを行いました。その献身的な姿勢は消防士たちから深く慕われ、「愛のために司牧した」と評されています。

ニューヨークでは、ホームレス、飢えた人々、病や怪我に苦しむ人々、エイズ患者、移民、そして教会から疎外されがちだったゲイやレズビアンの人々への司牧に特に力を入れました。冬のコートをホームレスの女性に与えたり、エイズで死を迎えようとする男性に寄り添い抱きしめたりといったエピソードは、彼の尽きることない慈愛を示しています。多くの人々が、その並外れた慈善と深い精神性から、彼を「生ける聖人」と見なしていました。祈りの中ではしばしば神との特別な一体感を感じていたといいます。

2001年9月11日の悲劇

2001年9月11日、世界貿易センタービルへの自爆テロが発生すると、ジャッジ師は現場に急行しました。負傷者や犠牲者のために祈りを捧げながら、救護活動の中心となっていた北棟のエントランスに入り、人々のために祈り続けました。午前9時59分に南棟が崩壊した際、激しい破片が北棟ロビーに降り注ぎ、多くの人が犠牲となりました。その中にジャッジ師も含まれていました。伝えられるところでは、頭部に致命傷を負う直前まで、彼は「主よ、この惨劇をいますぐ終わらせたまえ！　神よ、終わらせたまえ！」と繰り返し祈っていたといいます。

ジャッジ師の遺体は、ニューヨーク市警の警部や消防士、救急隊員らによって北棟の外に運び出されました。この場面はドキュメンタリーフィルムに収められ、ロイターのカメラマンが撮影した写真は「アメリカのピエタ」と呼ばれ、テロ攻撃を象徴する最も有名なイメージの一つとなりました。ジャッジ師は、テロ攻撃による犠牲者として最初に公認された人物、「犠牲者番号0001」に指定されました。

追悼と永遠のレガシー

2001年9月15日にアッシジのフランシスコ教会で行われたジャッジ師の葬儀ミサには、3000人を超える人々が参列しました。当時のエドワード・イーガン枢機卿が司式し、ビル・クリントン元大統領も弔いの言葉を述べ、ジャッジ師の生涯をテロリストとは対極にある模範として称えました。遺体はニュージャージー州の修道士墓地に埋葬されました。

ジャッジ師の列聖を求める声がローマ・カトリック教会に寄せられていますが、公式な動きはまだありません。しかし、一部の独立した教会や多くのカトリック信徒は、彼を事実上の聖人と見なしています。彼の消防ヘルメットは当時の教皇ヨハネ・パウロ2世に贈られ、フランス政府からはレジオンドヌール勲章が贈られました。アメリカ議会では最高位の勲章への推薦も行われました。

2002年、ニューヨーク市はジャッジ師が暮らした修道会の近くの通りを「マイカル・F・ジャッジ神父通り」と命名し、フェリーにもその名を冠しました。また、警察・消防チャプレンの遺族給付金に関する「マイカル・ジャッジ法」が成立し、同性パートナーや内縁の配偶者にも給付が適用される道を開きました。

現在も、銅像の建立や記念館の設立、ドキュメンタリー映画、楽曲、追悼ウォークなど、様々な形でジャッジ師の生涯と功績が称えられ、その記憶は受け継がれています。国立911記念博物館にも彼の名前が刻まれています。

性的指向と普遍的な愛

ジャッジ師の死後、一部の友人たちによって、彼がゲイであったことが明らかになりました。これについては議論も生じましたが、ジャッジ師自身や私的な記録は彼が自己をゲイと認識していたことを示唆しています。彼は、カトリック教会内でのLGBTQ+の受け入れを求める組織「DignityUSA」の長年のメンバーでした。当時のカトリック教会が同性愛を「本質的な道徳悪への強い傾向」と定義し、DignityUSAを教会から排除する動きがあった中でも、ジャッジ師は彼らの活動に理解を示し、自身の所属する教会で彼らの奉仕活動を歓迎しました。司祭としての独身の誓いを守りつつも、彼はセクシュアリティに関わらず全ての人々に対する愛と受容を説きました。「世界には実にたくさんの愛のかたちがあります。私たちにそれらをいちいち差別する余裕がありますか？」という彼の言葉は、その分け隔てない慈愛の精神を象徴しています。

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