マイケル・ウィリアム・バルフ

マイケル・ウィリアム・バルフ（Michael William Balfe, 1808年5月15日 - 1870年10月20日）は、19世紀を代表するアイルランドの作曲家であり、特にオペラ作品で名を馳せました。彼は作曲活動に加え、ヴァイオリニスト、オペラ歌手、そして指揮者としても活躍しました。

ダブリンで生まれたバルフは、幼い頃から音楽的才能を示し、舞踏指導者兼ヴァイオリニストの父や作曲家のウィリアム・マイケル・ルークに師事しました。少年期には既に作曲を手がけ、ヴァイオリンの公開演奏も行っていました。1823年に父が亡くなった後、ロンドンに移り、ドルリー・レーンにある王立劇場のオーケストラに入り、ヴァイオリニストを務めた後、指揮者にも就任しました。ロンドンでは引き続き音楽の研鑽を積んでいます。

ヴァイオリン演奏を続ける傍ら、バルフはオペラ歌手としてのキャリアも模索し、イタリアへ渡って声楽と作曲の専門的な訓練を受けました。この地で彼はケルビーニやロッシーニといった大家に師事し、最初の舞台作品となるバレエを作曲しています。1827年末にはパリでオペラ歌手として成功を収めました。その後、約8年間をイタリアを中心に活動し、歌手として各地で舞台に立ちながら、次々とオペラを作曲。この期間には、著名なソプラノ歌手マリア・マリブランやジュリア・グリジとも共演しています。1829年には、初の本格的なオペラ「I rivali di se stessi」をパレルモで初演しました。また、この頃に歌手のリナ・ローゼルと結婚し、4人の子をもうけました。

1835年にロンドンに戻ったバルフは、同年発表したオペラ「The Siege of Rochelle」で国内での大きな成功を収めました。これを皮切りに、「The Maid of Artois」をはじめとする英語オペラを立て続けに作曲し、人気作曲家としての地位を確立しました。1838年には、著名な歌手たちを起用したシェイクスピア原作のオペラ「ファルスタッフ」を発表しています。1841年にはロンドンでナショナル・オペラ設立を試みましたが軌道に乗らず、その後パリに移り、1843年から1845年にかけて「Le puits d'amour」など数作品を上演し、ウジェーヌ・スクリーブといった著名な台本作家と共同で制作を行いました。

パリ滞在中の1843年、バルフはロンドンに戻り、ドルリー・レーン王立劇場で彼の生涯で最も成功したオペラ「ボヘミアの少女」を初演しました。この作品は瞬く間に絶大な人気を獲得し、ロンドンでの100夜以上のロングランを記録したほか、ニューヨーク、ダブリン、ウィーンなど、世界各地で上演される国際的なレパートリーとなりました。後にイタリア語版やフランス語版も作られ、それぞれの国で好評を博しました。

1846年から1852年にかけては、ロンドンのハー・マジェスティーズ・シアターでイタリア・オペラの音楽監督兼首席指揮者として重要な役割を果たしました。ここで彼はロンドンの聴衆にヴェルディのオペラを初めて紹介し、有名なソプラノ歌手ジェニー・リンドのデビューやその後の公演で度々指揮を担当しました。この時期も旺盛な作曲活動を続け、新たな英語オペラや数多くの歌曲を生み出しました。「ボヘミアの少女」に含まれる「I Dreamt I Dwelt in Marble Halls」や、「Come into the Garden, Maud」などは特に有名です。バルフが生涯に作曲したオペラは38作品に上り、その他にもカンタータや交響曲などの作品があります。彼の最後のオペラ「The Knight of the Leopard」は、死後イタリア語版「Il Talismano」として上演され成功を収めました。

1864年に引退した後、ハートフォードシャーの田舎で暮らしました。1870年に62歳で自宅にて死去し、ケンザル・グリーンに埋葬されています。彼の功績は死後も称えられ、1882年にはウェストミンスター寺院に彼の肖像を模したメダル飾りが設置されたほか、ロンドンにも記念の飾り板が掲げられました。今日、バルフの広範な作品群の中で、定期的に上演されるのは主に「ボヘミアの少女」ですが、近年は彼の他の作品、特にオペラからの抜粋や歌曲などが録音され、その音楽的遺産が再評価されています。

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