マイルズ・ランプソン (初代キラーン男爵)

マイルズ・ウェダーバーン・ランプソン：大英帝国の黄昏とエジプト

初代キラーン男爵マイルズ・ウェダーバーン・ランプソン（1880年8月24日 - 1964年9月18日）は、イギリスの外交官、政治家、そして貴族でした。彼は特に第二次世界大戦中、イギリスの半植民地であったエジプトにおいて、実質的な統治者として強い影響力を行使しました。

生涯

1880年、ランプソンは初代準男爵カーティス・ミランダ・ランプソンの息子としてスコットランドで生まれました。イートン校を卒業後、1903年に外務省に入省し、外交官としてのキャリアをスタートさせます。初期にはアジア地域での勤務が多く、1906年には明治天皇へのガーター勲章使節団の一員として来日も果たしています。その後、シベリア高等弁務官や中華民国駐在の特命全権公使を歴任し、アジア情勢に深く関与しました。

1933年、ランプソンはエジプト高等弁務官およびスーダン高等弁務官に就任。当時のエジプトは形式的には独立国でしたが、実際にはイギリスの強い影響下にあり、ランプソンは事実上の統治者として君臨しました。彼は、エジプト国王ファルーク1世を「あの子」と呼び、軽蔑的な態度で接するなど、その高圧的な姿勢はエジプト国民の反感を招きました。

第二次世界大戦中、ドイツ軍がカイロに迫ると、ファルーク1世はイギリスからの解放を試み、反英内閣の樹立を画策します。しかし、ランプソンは1942年2月、イギリスの傀儡内閣を樹立させるべく、ファルーク1世を脅迫。宮殿をイギリス軍で包囲し、要求をのませるという強硬手段に出ました。この事件は、エジプトの民族主義者たちの怒りを買い、後のエジプト革命へと繋がります。

ランプソンの強引な手腕は、当時のイギリス首相チャーチルからは高く評価され、1943年にはキラーン男爵に叙せられました。しかし、ナセルをはじめとするエジプトの民族主義者たちは、この事件をきっかけに革命を決意。1952年のエジプト革命、スエズ運河国有化、そしてスエズ戦争へと発展していくことになります。

戦後、イギリス国内の政権交代により、ランプソンは1946年にエジプト高等弁務官を解任されました。その後は南東アジア特別高等弁務官としてシンガポールに転任し、イギリスの植民地支配の再確立に尽力。1948年以降はイギリス本国で貴族院議員として活動し、1964年に生涯を閉じました。

人物と評価

ランプソンは身長192センチ、体重114キロという大柄な体格であり、熱心な帝国主義者として知られていました。彼は、エジプトを大英帝国の支配下にとどめるためには、いかなる手段も正当化されると考えており、その高圧的な態度はエジプトの人々から「第二のクローマー」と揶揄されました。

英国人名事典では、彼の経歴について「危機を愉しんでいたのは日記や書簡からも明らか」と評しつつ、「批判や敵対するもの、脅威に臆することのない卓越したネゴシエーター」と評価しています。しかし、その強引な手法は、エジプトの民族主義運動を激化させ、大英帝国の衰退を早める一因となったことは否定できません。

マイルズ・ウェダーバーン・ランプソンは、大英帝国の黄昏時を生きた人物として、その功績と負の遺産の両面において、歴史に名を刻んでいます。

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