マカオの歴史

マカオ：東西文化の交差路、400年を超える歴史の軌跡

マカオの歴史は、16世紀初頭、ポルトガル人が到来したことに始まります。1513年、東南アジア航路を経て中国近海に到達したポルトガル人は、マカオに交易拠点を築き、中国や日本との貿易を展開しました。カトリック布教の拠点としても機能し、日本への禁教後は宣教師が北京へと派遣されました。

ポルトガルによるマカオ支配の始まりは、しばしば「海賊討伐への協力の対価」として描かれますが、これはポルトガル側の主張であり、中国側の史料では賄賂による上陸許可取得が記されています。初期段階ではポルトガルは居留権を認められたのみで、明、清朝時代を通じて中国の主権は維持され、税関や中国官吏の存在が確認できます。

ポルトガルの行政機構はインド副王の管轄下にあり、1583年には市に昇格、議会も設置されました。1579年にはマカオ司教区も独立しています。日中貿易の中継拠点としての繁栄は有名ですが、東南アジアへの貿易・布教拠点としても重要な役割を果たしました。

17世紀の明清交代期、清の遷界令や日本の鎖国によりマカオは一時的に衰退しました。また、ポルトガルがスペイン王の支配下に入った時期にはオランダとの戦闘も発生しました。ポルトガル本国の動乱もマカオ経営に影響を与えました。しかし、鄭氏政権の清への降伏後、貿易は再開されます。

ポルトガルがマカオの行政権を完全に掌握し植民地化したのは1849年、アヘン戦争後のイギリスによる香港獲得が刺激となりました。1862年に清朝がポルトガルの統治権を承認、1887年の条約で第三国への譲渡を禁じ、永久占有が認められました。しかし、ポルトガルが獲得したのは統治権のみであり、主権は中国に留まりました。このため、「マカオはポルトガル領になったことがない」という見方も存在します。

第二次世界大戦中は、ポルトガルの中立宣言によりマカオは中立港となり経済的に繁栄しましたが、日中戦争による中国人の難民流入も発生しました。1951年、ポルトガルはマカオを海外県としましたが、中国共産党との国交はありませんでした。1966年の反ポルトガル闘争（一二・三事件）後、マカオは事実上中国の影響下に入り、親中派実業家の影響力が強まりました。

1974年のポルトガルのカーネーション革命後、新政権は海外植民地の放棄を宣言しマカオ返還を提案しましたが、中国はこれを拒否しました。1976年、マカオは海外県から特別領となり、行政の独立性が高まりました。1979年の国交樹立で中国のマカオ主権が確認されましたが、香港情勢を考慮し、中国は当面ポルトガルの統治を容認し、主権と統治権の分離という形がとられました。

1986年から香港返還交渉と並行してマカオ返還交渉が始まり、1987年の共同声明で1999年の行政権返還が決定しました。マカオには「一国二制度」が適用され、返還後50年間、ポルトガルの社会制度が維持されることになりました。1999年 12月20日、マカオは中華人民共和国の特別行政区となり、アジアから欧米の植民地が完全に姿を消しました。

マカオ経済史：南海貿易からカジノ産業へ

16世紀のマカオ貿易の中心は、東南アジア産品と中国産品を交易する南海貿易でした。その後、明王朝の対日貿易禁止により、ポルトガルは日中貿易の中継役となり莫大な利益を得ました。1580年のポルトガルとスペインの同君連合により、マニラとの貿易ルートも開かれ、日本の経済発展と銀の需要増加が貿易をさらに活性化させました。しかし、日本の鎖国と明清交代期の動乱により、17世紀にはマカオは衰退しました。

明末清初の動乱終結後、マカオは東南アジア貿易に活路を見出しました。しかし、清朝の広州開放と広東貿易の発展により、マカオの貿易地位は低下していきました。広州での貿易制限のため、欧米商人はマカオを休養地として利用し、カジノ産業が発達しました。

19世紀以降、イギリスの進出と香港の台頭により、マカオの対中貿易はさらに衰退しました。港湾の制限も影響を与えました。一時、中南米への苦力貿易で命脈を保ちましたが、奴隷廃止運動の高まりにより禁止され、残されたのが賭博業の合法化でした。1847年、ポルトガルは賭博を合法化し、税収確保を目指しました。香港における賭博禁止もマカオの賭博業発展を促しました。

日中戦争時は、ポルトガルの中立により多くの難民が流入しましたが、戦後には多くの人がマカオを去り、経済は不況に陥りました。1961年、ポルトガルはマカオの観光化政策を打ち出し、賭博業を促進策と位置づけました。スタンレー・ホーらによる「マカオ旅遊娯楽有限公司」設立、カジノ営業権の獲得、ホテル建設やインフラ整備により、マカオは観光客誘致に成功し、カジノ産業は40年間独占的に発展しました。

返還後、2002年にはカジノ経営権の国際入札が行われ、競争が促進されました。中国本土経済の発展に伴い中国本土からの観光客が大幅に増加し、現在ではGDPや政府歳入のかなりの部分をギャンブル産業が占めています。

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