マカオの競馬

マカオ 競馬：歴史と終焉

マカオにおける競馬の歴史は古く、17世紀にはすでに競馬が行われていた記録が残っています。1829年にはイギリス人によって近代競馬が導入され、その後、香港の競馬場開設などを挟みながらも、幾度かの中断を経て、1927年には黒沙環地区に競馬場が開設されました。太平洋戦争による中断を経て、1980年にはタイパ競馬場が開設され、ハーネス競馬が開始されましたが、1989年にはマカオジョッキークラブの設立に伴い、平地競走に移行します。

しかし、マカオ競馬の歴史は順風満帆ではありませんでした。1990年には経営難に陥り、一時開催が中断する事態も発生します。この危機を救ったのは、当時マカオのカジノ事業を独占していたスタンレー・ホー氏でした。彼の企業集団による買収の後、マカオ競馬は再興し、2000年には国際セリ名簿基準書のパートIIIに、2004年にはパートIIに認定されるなど、国際的な地位も確立していきます。さらに香港との交流競走も開始され、マカオ競馬は新たな発展を遂げると期待されました。

しかし、21世紀に入ると、マカオ競馬を取り巻く環境は大きく変化します。2004年のカジノへの外資参入許可により、カジノ産業の競争が激化し、他のギャンブル事業は衰退の一途をたどります。競馬も例外ではなく、廃止論が何度も浮上するようになりました。2023/2024年シーズンには、政府の開催承認が直前まで得られないという危機的状況に陥り、賞金額の減額計画発表を巡っては調教師と騎手がストライキを警告する事態にまで発展しました。

そして2024年1月、マカオ政府とマカオジョッキークラブは、競馬運営権契約を同年4月1日付で解除し、競馬開催を停止することを発表しました。マカオジョッキークラブの累積損失は25億パタカ（約450億円）に達しており、経済的な理由による廃止決定であったことが明らかになっています。行政法務司長は、競馬が衰退産業であり、マカオに社会経済的な利益をもたらさないことを理由に、将来の運営権入札も行わないと表明しました。これにより、マカオ競馬は、長きにわたる歴史に幕を閉じました。

マカオ 競馬の特徴

マカオ競馬は、東アジアにおける最初のヨーロッパ人居留地という歴史的背景を有しており、その歴史は他のアジア地域の競馬と比較しても古い部類に入ります。しかし、マカオでは競馬以外にも、ハイアライやドッグレースといった庶民向けのギャンブルが盛んであったため、競馬が圧倒的な人気を得ることはありませんでした。カジノ産業の急成長と、それによる他のギャンブル産業の衰退が、マカオ競馬の終焉を早めた一つの要因と言えるでしょう。

タイパ競馬場は、当初ハーネス競馬の場として開設されましたが、その後サラブレッドによる平地競走へと転換しました。マカオジョッキークラブは民間企業として運営されてきましたが、その経営は常に厳しい状況にありました。

競走と馬券

競馬シーズンは9月末から翌年8月末までで、毎週1～2回、競走が開催されていました。芝とダートの両方のコースがあり、さまざまな競走が行われていました。かつては年間1200回もの競走が施行されていましたが、近年は大幅に減少していました。2022/2023年シーズンには、開催日数は65日、施行競走数は327回と、かつての盛況からは程遠い状況でした。

マカオギニー、マカオダービー、マカオゴールドカップからなる三冠競走なども行われていましたが、近年は実施されないレースも増えました。カップレースや重賞競走の数も減少しており、マカオ競馬の衰退は競走数の減少にも如実に表れていました。

馬券については、香港での場外発売もかつては行われていましたが、香港政府の賭博条例改正により大きな打撃を受けました。マカオジョッキークラブは、中国本土からの集客や海外競馬の国際サイマル発売などで売り上げを維持しようと努力していましたが、その努力も衰退の波を食い止めるには至りませんでした。

馬産と競走馬

マカオではサラブレッドの生産は行われておらず、競走馬は全て海外からの輸入に頼っていました。2003年には1200頭いた競走馬も、2023年には220頭にまで減少しました。競馬開催終了発表時点では、引退馬を含め290頭が在厩しており、その後、中国本土やオーストラリア、ニュージーランドなどに送られました。

まとめ

マカオ競馬は、長きに渡る歴史と幾多の苦難を乗り越えてきましたが、時代の流れと経済状況の変化の中で、ついにその幕を閉じました。その歴史は、マカオの社会経済状況を反映するものであり、同時に、競馬産業の厳しい現実を私たちに示すものとなっています。マカオ競馬の廃止は、単なる競馬場の閉鎖というだけでなく、一つの時代の終わりを告げる出来事であったと言えるでしょう。

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