マクスウェル・D・テイラー

マクスウェル・D・テイラーの生涯

マクスウェル・ダヴェンポート・テイラー（Maxwell Davenport Taylor, 1901年8月26日 - 1987年4月19日）は、アメリカ合衆国の軍人、外交官としてその生涯を刻みました。彼は、多言語に通じ、第二次世界大戦や朝鮮戦争といった激戦地でその手腕を発揮し、その後のアメリカの軍事・外交政策に大きな影響を与えました。

若き日のテイラー

1901年、ミズーリ州キーテスビルで生まれたテイラーは、1922年にアメリカ陸軍士官学校を卒業。日本語を含む7カ国語を操る語学力は、その後のキャリアに大きく貢献しました。1937年には、盧溝橋事件発生時に駐日大使館付武官補佐官として北京に派遣され、日本軍の動向を詳細に把握するなど、卓越した情報収集能力を発揮しました。

第二次世界大戦での活躍

第二次世界大戦勃発後、テイラーは第82空挺師団でマシュー・リッジウェイ将軍の下で昇進を重ねます。1943年には、その語学力と外交能力が買われ、ローマでの秘密任務に従事。ドワイト・D・アイゼンハワー将軍をして「戦争中、他のいかなるエージェントや密偵よりも危険な任務を遂行した」と言わしめました。彼は、イタリアの新首相ピエトロ・バドリオ元帥と会談し、第82空挺師団とイタリア軍の共同作戦を調整する任務を担いましたが、ドイツ軍の動きを察知し、作戦中止を具申。その的確な判断が、部隊の壊滅を未然に防ぎました。

地中海戦役後、テイラーは第101空挺師団の指揮官に就任。ノルマンディー上陸作戦では、連合軍の将官として最初にフランスの地に足を踏み入れました。その後も同師団を率いて各地を転戦しましたが、バルジの戦いでは本国に帰国中だったため、戦闘指揮を執ることはできませんでした。この一件は、一部の落下傘兵から不満の声が上がったものの、テイラー自身はバストーニュでの戦いを「最も素晴らしい時間」と評し、不在であったことを「最も当て外れの出来事」と述懐しています。

戦後のキャリア

1945年から1949年まで、テイラーは陸軍士官学校の校長を務め、1947年には「士官候補生表彰規定」を制定しました。1949年から1951年までは、ベルリンで欧州連合軍総司令官として活動。1953年には、第8軍司令官として朝鮮戦争に参加しました。

1955年には、マシュー・B・リッジウェイ陸軍大将の後任として陸軍参謀総長に就任。核兵器の時代における陸上戦力の削減を試みましたが、その改革は、ベトナム戦争での戦訓から、アメリカ陸軍の能力を低下させたと批判されました。1957年には、リトルロック高校事件で、アイゼンハワー大統領の命を受け、第101空挺師団の兵士を派遣し、人種差別撤廃を求める連邦裁判所の命令を執行しました。

「ニュールック」政策への批判と現役復帰

陸軍参謀総長として、テイラーはアイゼンハワー政権の国防政策である「ニュールック」政策を批判しました。彼は、核兵器に過度に依存し、通常戦力を軽視していると主張し、1959年に現役を退いた後も、その反対運動を続けました。1960年には、著書『不確実なトランペット』を出版し、その批判をさらに強めました。

1960年の大統領選で、ジョン・F・ケネディは、テイラーの主張する「フレキシブルな応答」政策を支持し、当選。1961年4月のピッグス湾事件の失敗を受け、ケネディはテイラーを特別委員会の委員長に任命。事件の真相究明にあたらせました。テイラーの調査能力と誠実さを評価したケネディは、彼を現役復帰させ、統合参謀本部議長に任命。テイラーは、大統領の軍事顧問として、強い影響力を持つようになりました。

ベトナム戦争への関与

テイラーは、ベトナム戦争の初期段階から深く関与しました。当初は、アメリカ軍の地上部隊投入に慎重だったものの、最終的には8,000名の実戦部隊派遣を提言。また、南ベトナムのゴ・ジン・ジェム政権を打倒したクーデターには反対しました。1964年には南ベトナム大使に就任し、グエン・カーン将軍と頻繁に衝突しました。その後も、大統領特別顧問や国外情報諮問委員会委員長などを歴任し、ベトナム戦争のエスカレーションに関与しました。

退役と晩年

2度目の退役後、テイラーはさまざまな役職を歴任しましたが、筋萎縮性側索硬化症を患い、1987年4月19日にワシントンD.C.で死去。アーリントン国立墓地に埋葬されました。

批判と遺産

テイラーは、ハーバート・マクマスター少佐の著書『Dereliction of Duty』で、ベトナム戦争における意思決定プロセスにおいて、統合参謀本部の意見を歪曲して伝えたとして批判されました。しかし、その一方で、彼は卓越した軍事・外交能力を発揮し、その後のアメリカの安全保障政策に大きな影響を与えた人物として、歴史に名を刻んでいます。

テイラーの生涯は、第二次世界大戦からベトナム戦争という激動の時代を背景に、軍人、外交官、そして政策立案者として、アメリカの歴史における重要な役割を担った人物であったことを示しています。

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