ピエトロ・バドリオ

ピエトロ・バドリオ：激動の時代を生きたイタリアの軍人、政治家

ピエトロ・バドリオ（Pietro Badoglio）は、1871年9月28日にイタリアのピエモンテ地方で生まれました。彼は軍人としてキャリアをスタートさせ、第一次エチオピア戦争に従軍。アドワの戦いでの撤退支援の功績により昇進しました。第一次世界大戦では参謀長や軍団長を歴任し、休戦条約交渉ではイタリア全権大使を務めました。

ムッソリーニとの関係と対立

1919年には陸軍参謀長に就任しましたが、1922年のベニート・ムッソリーニのローマ進軍に反発したため、一時的に軍を追放されます。その後、復帰し国防参謀長、元帥へと昇進。1928年にはサボティーノ侯爵に叙せられました。1928年から1933年まではリビア総督を務め、1935年からの第二次エチオピア戦争では、当初は関与していませんでしたが、エミーリオ・デ・ボーノ将軍の解任後、後任の司令官となりました。彼は、強行軍での進撃と毒ガス、焼夷弾を用いた無差別爆撃により、エチオピアを早期に征服し、アディスアベバに入城。アディスアベバ公爵の爵位を授与されました。その後、国防参謀長に再任されましたが、第二次世界大戦への参戦には反対し、全ての職を辞して隠遁生活を送りました。

第二次世界大戦と首相就任

バドリオは当初、ナチス・ドイツの電撃戦を見て参戦を決定したムッソリーニに対して「それは自殺だ」と反対したとされています。しかし、参戦会議では戦争開始に前向きな姿勢を示したとする記録も存在し、彼の態度は一貫していなかったとする見方もあります。戦局が悪化するにつれ、軍内部ではムッソリーニへの求心力が低下。バドリオもムッソリーニを厳しく批判しました。

1943年、連合軍のシチリア侵攻によりイタリアの敗戦が決定的なものとなり、ファシズム大評議会でムッソリーニ失脚が決議され、バドリオは国王から首相に任命されました。彼は就任演説で「戦争は依然続く」と述べながらも、連合国側との秘密休戦交渉を開始。ファシスト党の解散を命じ、交渉の結果、9月3日に秘密休戦協定が締結されました。しかし、9月8日に連合軍が無条件降伏を発表したことで、ドイツ軍がローマに侵攻。バドリオ政権は南部に逃れることとなりました。その後、イタリアは内戦状態となり、バドリオは日独伊三国同盟を破棄してドイツに宣戦布告しました。

失脚と晩年

内戦後、バドリオは内閣改造を何度か行いましたが、国民の支持を失い、イヴァノエ・ボノーミに首相の座を譲り、公職から引退しました。1956年11月、故郷で喘息発作により85歳で亡くなりました。

家族と逸話

バドリオは1904年にソフィア・ヴァラニアと結婚し、三男一女をもうけました。彼の孫であるピエトロが二代目アディスアベバ公爵を継承し、その長男フラヴィオが現在、三代目アディスアベバ公爵を名乗っています。

ムッソリーニ失脚後、枢軸国側ではバドリオは「裏切り者」として認識され、「バドリオ」という言葉が裏切り者や敗北主義者を指す言葉として使われることもありました。また、第二次エチオピア戦争中の毒ガス使用と無差別爆撃は戦争犯罪であるという批判も存在します。しかし、一方で、毒ガス使用はエチオピア側の戦争犯罪に対する報復であったという主張も存在します。

バドリオの生涯は、激動の時代における複雑な政治と軍事の状況を反映しています。彼の行動は多くの議論を呼び、その評価は多面的です。彼は、イタリア史において、重要な役割を果たした人物の一人として記憶されています。

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