マクマホンライン

マクマホン・ラインは、1914年にイギリス領インド帝国とチベットの間で締結されたシムラ条約によって定められた国境線です。この国境線は、ヒマラヤ山脈の稜線に沿ってブータンからビルマ（現在のミャンマー）国境まで、約890キロメートルにわたって設定されました。

この名称は、イギリス領インド帝国の外務大臣であり、シムラ条約の交渉全権代表を務めたヘンリー・マクマホン卿に由来します。インドはこのマクマホン・ラインを合法的な国境としていますが、中国はこれを認めず、現在も両国間の領土紛争の大きな要因となっています。

マクマホン・ラインの成立背景

19世紀から20世紀初頭にかけて、イギリスはインド亜大陸における勢力を拡大していました。1824年から1826年の第一次英緬戦争を経て、イギリス領インド帝国の勢力はブータンの東方まで広がりました。さらに、1903年からはチベットへの遠征を行い、この地域への関与を深めていきました。

1907年の英露協商では、イギリスとロシアは中国のチベットに対する宗主権を認め、内政不干渉を取り決めました。しかし、1911年から1912年の辛亥革命により清帝国が崩壊し、中国の国家体制が大きく変化しました。

1913年、チベットとモンゴルは相互承認条約を結び、独立を宣言しました。しかし、この動きに対してイギリスとロシアは、中華民国との協調を模索し、モンゴルとチベットの両国に対して内政自治を認めさせることとなりました。この際、ロシアはモンゴルとの国境線をキャフタ条約によって確定させました。

一方、イギリスはチベットとの関係を強化し、1913年から1914年にかけて、イギリス、チベット、中華民国の代表によるシムラ会議を開催しました。しかし、中華民国は条約への署名を拒否したため、シムラ条約はイギリスとチベット間の条約となり、その中でマクマホン・ラインが定められることとなりました。

このシムラ条約は、チベットへの内政干渉禁止を定めた1907年の英露協商と矛盾するという批判もありました。しかし、マクマホン・ラインは現在に至るまで、インドと中国の実質的な国境線として機能しています。

中印間の対立

中国は、シムラ条約に署名していないため、マクマホン・ラインを違法なものと主張しています。中国は、チベットは主権国家ではないため、条約を締結する権限がないという立場を取っています。

これに対してインドは、マクマホン・ラインを合法的な国境線と主張しています。しかし、中国側は、マクマホン・ラインの南側、約6万5000平方キロメートルの地域をチベット自治区の領土として主張しています。この地域は現在、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州の一部となっており、両国間の紛争の火種となっています。

1959年には、中印国境紛争が勃発しました。しかし、1959年11月7日付の周恩来首相の書簡では、マクマホン・ラインを実効支配線として認識していたともされています。しかし、中国の公式見解としては、マクマホン・ラインは依然として違法なものとされています。

日本におけるマクマホン・ライン

日本の学校教育用地図帳では、この地域を所属未定としているか、マクマホンラインをインド北部国境としつつ、中国主張の国境も描くという手法をとっています。これは、領土問題に関する中立的な立場を示すためです。

まとめ

マクマホン・ラインは、複雑な歴史的背景を持つ国境線です。インドと中国は、この国境線をめぐって長年にわたり対立しており、この問題は両国関係の安定を阻む要因の一つとなっています。この問題の解決には、両国の対話と相互理解が不可欠であると言えるでしょう。

関連事項

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外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、マクマホンラインに関するカテゴリがあります。
インドの戦争―印パ戦争と印中国境紛争― (PDF, 441 KiB)

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