マクラーレン・M30

マクラーレンM30：進化を遂げた名車の軌跡

1980年のF1世界選手権を舞台に、マクラーレンチームは新たな挑戦者、マクラーレンM30を投入しました。このマシンは、前モデルであるM29をベースに、幾つかの重要な改良が加えられた進化版と言えるでしょう。設計を手掛けたのは、名匠ゴードン・コパックです。彼はこのM30を最後にマクラーレンでのF1マシン設計から退きました。

M30の開発においては、空力性能とハンドリングの向上に重点が置かれました。基本的なスタイルはM29と似ていますが、シャシーの設計は大きく見直されています。重心の低減と剛性向上を実現するために、細部に至るまで徹底的な改良が施されました。具体的には、サスペンションシステムがインボード化され、ブレーキシステムはアウトボードタイプへと変更されました。これにより、マシンの運動性能が飛躍的に向上したと言われています。

M30は、わずか1台のみが製作されました。その貴重な1台を駆ったのは、後にF1チャンピオンとなるアラン・プロストです。チームメイトのジョン・ワトソンは、引き続きM29Cをドライブしました。プロストはM30でいくつかのレースに出場し、第11戦オランダGPでは6位入賞、イタリアGPでは7位入賞と健闘を見せました。

その後、ジョン・バーナードによってM30の車体全体に修正が加えられましたが、シーズン最終戦であるアメリカGPの予選中に事故が発生。この事故によってM30は深刻な損傷を受け、修復不可能な状態となってしまいました。この事故は、M30の短いながらも華々しいF1キャリアに終止符を打ちました。

M30のスペックを見てみましょう。シャシーはアルミニウムモノコック構造、ホイールベースは2731mm、前トレッドは1753mm、後トレッドは1626mmです。サスペンションは前後ダブルウィッシュボーン式、タイヤはグッドイヤー製、ギアボックスはマクラーレン/ヒューランドFG400(6速)マニュアルシフトです。搭載エンジンは、名門コスワースが開発したDFV型V型8気筒エンジンで、排気量は2993cc。潤滑油にはカストロールが使用されました。

マクラーレンM30は、短い期間しかF1の舞台を踏むことはありませんでしたが、その進化した設計と、名ドライバーであるアラン・プロストの手腕によって、幾つかの好成績を残しました。そして、ゴードン・コパックという名デザイナーの最後のマクラーレンF1マシンとしての存在感も、このマシンの歴史における重要な要素です。M30は、F1の歴史に小さなながらも鮮やかな足跡を残した1台と言えるでしょう。

参考文献:

* ダグ・ナイ：著 森岡成憲：訳 『チーム・マクラーレンの全て THE GRAND PRIX, CAN-AM AND INDY CARS by Doug Nye』 CBSソニー出版、1989年 ISBN 4-7897-0504-8

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