マッカリ・ゴーサーラ

マッカリ・ゴーサーラ：宿命論を説いた宗教家

マッカリ・ゴーサーラ（Makkhali Gosala）は、紀元前6世紀頃、古代インドで活躍した宗教家です。釈迦やマハーヴィーラと同時代の、アージーヴィカという教団の指導者として知られています。仏教やジャイナ教と並んで有力な宗教勢力であり、その思想は、特に仏教徒やジャイナ教徒から激しい批判を受けていました。釈迦はゴーサーラの教えを危険で劣ったものと見なしていたと伝わります。

生涯と修行

ゴーサーラの誕生は、両親が牛舎で雨季を過ごしていた際に生まれたという逸話が残されています。彼は若い頃、ジャイナ教の開祖であるマハーヴィーラに師事し、厳しい修行に励んだとされています。仏典やジャイナ教典によると、彼は強力な呪術の力を持ち、呪術師としても名を馳せていました。マハーヴィーラとの間で呪術勝負を行った際、弟子を失ったという記録も存在します。歴史家のミルチア・エリアーデは、この出来事を紀元前485年から484年頃に発生したと推定しています。ジャイナ教の伝説では、マハーヴィーラと激しい論争を繰り広げた後、没したとされています。この時期は、マガダ王アジャータシャトルがヴァッジ国に侵攻した時期と重なり、仏教の経典『マハーパリニッバーナ・スッタンタ』にも関連する記述が見られます。したがって、ゴーサーラの没年は、釈迦入滅の数年後と推定されています。また、仏典『義足経上異学角飛経』では、釈迦と神通力を競い、敗れたと記されています。

アージーヴィカ教と十二要素説

アージーヴィカ教の教典は現存しておらず、その教義を正確に復元するのは困難です。しかし、仏典やジャイナ教典の断片的な記述から、その思想を推測することができます。アージーヴィカ教は、仏教やジャイナ教よりも古い歴史を持つ宗教運動と関連があるとされています。

ゴーサーラの主要な思想の一つに、「十二要素説」があります。この説では、生命を構成する要素として、霊魂、地、水、火、風、虚空、得、失、苦、楽、生、死の12種類の実体を主張しています。「得」以降の6要素は、現象作用を可能にする原理を具象化したものです。注目すべきは、霊魂を物質と同様に捉え、全ての生物に霊魂が存在すると主張している点です。

宿命論と業の否定

ゴーサーラは徹底的な宿命論者でした。彼は、宇宙を支配する原理である「ニヤティ（宿命）」によって、万物の全てが決定されていると主張し、人間の意志による行為を否定しました。この主張は、「人間の努力は無意味である」というものであり、釈迦やマハーヴィーラから強い批判を浴びました。

ゴーサーラは、輪廻転生は「無因無縁」であり、解脱に至るのも同様に無因無縁だと考えました。つまり、善悪の行為による因果応報（業）を否定し、全ての出来事は宿命によって定められているとしたのです。この思想は、仏教の縁起説と真っ向から対立します。彼は、賢者も愚者も、計り知れない長い時間をかけて輪廻を続け、最終的には何の努力もなく自然に解脱に達すると説きました。これは、当時広く信じられていた「業」の概念を否定するものでした。結果を決定するのは神でも自然の本性でもカルマでもなく、「宿命（ニヤティ）」であり、人は宿命と合一することで成功し、幸福や不幸を決定すると主張しました。

苦行とアージーヴィカ教団

アージーヴィカ教では、宿命論と同時に厳しい苦行が実践されました。これは一見矛盾するように見えますが、アージーヴィカ教徒にとって解脱とは、心、言葉、身体による全ての行為の消滅であり、それは「スッダーパーヤナ」と呼ばれる、長期間の断食による死によって実現すると考えられていました。研究者の中には、苦行によって宿命を安らかに受け入れる境地を目指していたのではないかと推測する声もあります。

「アージーヴィカ」とは、「命ある限り誓いを守る」という意味と解釈されます。出家者は苦行と放浪を義務づけられ、多くが宿命を読む占星術師や占い師として活動しました。彼らは裸で遊行し、乞食をして生活し、厳しい食事制限を守り、多くが餓死によって命を終えたとされています。アージーヴィカ教は、マウリヤ朝のアショーカ王の治世下では大勢力となりましたが、その後は衰退し、ジャイナ教に吸収されていきました。しかし、南インドの一部では13世紀まで存続した痕跡が残っています。

ゴーサーラの思想的意義

ゴーサーラの決定論的思想は、インド思想史において特異な位置を占めています。彼の思想は、自然現象や生命法則の研究とも深く関わっており、古代インドにおける多様な思想の一端を示しています。彼の主張は現代の私たちにとっても、宿命論や自由意志といった哲学的な問いを考える上で、重要な示唆を与えてくれると言えるでしょう。

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