マックス・ボルン

マックス・ボルン：量子力学の礎を築いた巨星

マックス・ボルン（1882年-1970年）は、20世紀を代表するドイツの理論物理学者です。1954年、量子力学、特に波動関数の確率解釈に関する先駆的な研究によりノーベル物理学賞を受賞しました。彼の業績は、量子力学の確立と発展に計り知れない貢献を果たし、現代物理学の基礎を築いたと言えるでしょう。

ボルンは、ドイツのブレスラウ（現ヴロツワフ）でユダヤ系の家庭に生まれました。父はブレスラウ大学の教授であったことから、彼は恵まれた環境で育ちました。チューリヒ大学やゲッティンゲン大学で学び、その後ベルリン大学、フランクフルト大学を経て、1921年にはゲッティンゲン大学の教授に就任します。

ゲッティンゲン大学在籍中、ボルンは量子力学の分野で画期的な研究成果を挙げました。特に1926年に発表した量子力学の確率解釈（統計的解釈）は、量子力学における重要な概念として広く受け入れられ、彼の名を不朽のものとしました。この解釈は、それまでの古典物理学とは異なる、確率的な側面を量子力学に導入したものであり、量子現象の理解に革命をもたらしました。

また、ボルンはロバート・オッペンハイマーとの共同研究で「ボルン-オッペンハイマー近似」と呼ばれる近似法を開発しました。この近似法は、分子や結晶における電子の挙動を計算する上で非常に重要な手法であり、現在でも広く利用されています。

ボルンは優れた教育者としても知られています。彼の指導を受けた学生の中には、マックス・デルブリュック、フリードリッヒ・フント、パスクアル・ヨルダン、マリア・ゲッパート＝メイヤー、ロバート・オッペンハイマー、ヴィクター・ワイスコフなど、後にノーベル賞を受賞する物理学者も多数含まれています。これらの弟子たちは、世界中の大学や研究機関で活躍し、量子力学をはじめとする物理学の進歩に大きく貢献しました。

1933年、ナチス政権下でユダヤ人迫害が激化すると、ボルンは教授職を追われ、ドイツを離れることを余儀なくされます。家族と共にイギリスへ亡命し、ケンブリッジ大学、エディンバラ大学で教鞭を執りました。イギリス滞在中には王立協会フェローにも選出されています。第二次世界大戦後には、マックス・プランク・メダルやヒューズ・メダルを受賞するなど、その功績は高く評価されました。

1953年にエディンバラ大学を退職した後、ボルンは西ドイツに戻り、バート・ピルモントに居住しました。1954年には、前述の量子力学における確率解釈の功績によりノーベル物理学賞を受賞しました。

晩年においても、ボルンは科学界への貢献を続けました。1957年には、オットー・ハーン、カール・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカー、ヴェルナー・ハイゼンベルクらと共にゲッティンゲン宣言を発表し、西ドイツの核武装に反対する立場を明確にしました。これは、科学者としての高い倫理観と、平和への強い意志を示すものでした。

1970年、ボルンはゲッティンゲンで亡くなりました。彼の墓所は、マックス・プランクも眠るゲッティンゲン市立墓地にあります。没後も、彼の業績を称えるため、ドイツ物理学会とイギリス物理学院によってマックス・ボルン賞が設立されました。また、アメリカ光学会においても、マックス・ボルン賞が設立されています。

ボルンは、アインシュタインとも親交があり、アインシュタインの有名な言葉「神はサイコロを振らない」は、ボルンへの手紙の中で述べられたものです。彼の門下からは、ヴェルナー・ハイゼンベルク、ジョン・フォン・ノイマン、ヴォルフガング・パウリなど、数々の著名な物理学者を輩出しました。ボルンの孫には、イギリス生まれのオーストラリアの歌手オリヴィア・ニュートン・ジョンもいます。

マックス・ボルンは、量子力学の発展に多大な貢献をしただけでなく、優れた教育者として多くの才能を育成し、反核運動にも積極的に参加するなど、20世紀物理学史に燦然と輝く、偉大な科学者でした。

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