マッダレーナ・ドーニの肖像

『マッダレーナ・ドーニの肖像』

『マッダレーナ・ドーニの肖像』（Ritratto di Maddalena Doni）は、イタリアのルネサンス期を代表する画家ラファエロ・サンツィオによって1504年から1507年にかけて制作された油彩画です。この作品は、フィレンツェの裕福な毛織物商人アーニョロ・ドーニの妻、マッダレーナ・ストロッツィを描いています。特に、アーニョロの肖像画の対作品としての役割を担っているこの作品は、ローマ神話に基づく神話画も裏面に描かれ、結婚の意味や人類再生の物語がテーマとして展開されています。

制作背景

マッダレーナはフィレンツェの名門家ストロッツィ家に生まれ、15歳で10歳上のアーニョロ・ドーニと結婚しました。この肖像画は、アーニョロが新婚夫婦のための結婚祝いとしてラファエロに依頼したとされています。アーニョロは節約家としても知られましたが、ラファエロに対する依頼には非常に惜しみなく資金を使いました。彼はまた、フラ・バルトロメオやミケランジェロなどの芸術家のパトロンでもあり、特にミケランジェロの『聖家族（トンド・ドーニ）』を依頼した人物として名を馳せています。

ラファエロは、当時フィレンツェでの影響力を持っていたレオナルド・ダ・ヴィンチのスタイルを研究しており、この作品にもその影響が随所に見られます。特に、ロンドンの「モナ・リザ」から受けた影響が色濃く、構図や人物の描写においてその影響を探ることができます。

作品の描写

この肖像画では、マッダレーナはふっくらとした肩を持ち、肘掛け椅子に座っています。彼女は背景に広がるウンブリア地方の美しい風景を背に、左腕を肘掛けに置き、その上に右手を軽く乗せた姿勢で描かれています。また、彼女の胸元にはアーニョロが贈った大粒の宝石をあしらったペンダントがあり、このペンダントはユニコーンの像と宝石、真珠が組み合わさり、結婚生活の純潔や忠実さを象徴しています。

作品はピラミッド型の構図が顕著で、マッダレーナの立ち姿は正面から4分の3の角度で描かれています。両手の仕草はまさにレオナルドのスタイルを思わせるもので、ラファエロがその時期にフィレンツェにて『モナ・リザ』を研究していたことが伺えます。しかしながら、ラファエロ独自のアプローチも見られ、彼は明確で堅実なスタイルを追求していました。このことから、ラファエロは特有の描写手法を用いており、背景の地平線を低く設定することで、キャラクターをより際立たせています。

神話画のテーマ

肖像画の裏面にはグリザイユで描かれた神話画が存在し、デウカリオンの洪水神話とその後の人類再生がテーマになっています。オウィディウスによると、洪水を生き延びたデウカリオンとその妻ピュラは、ゼウス（ローマ神話ではユピテル）の命令によって石を投げ、そこから人類が再生されます。この神話的なテーマは、若いマッダレーナとアーニョロの結婚の象徴と解釈され、多くの研究者に支持されています。

来歴と保管状況

『マッダレーナ・ドーニの肖像』は、長い間ドーニ家に所蔵されていた後、1826年にトスカーナ大公レオポルド2世により購入され、ピッティ宮殿のパラティーナ美術館に加えられました。2018年にはウフィツィ美術館に移され、現在も多くの来館者を魅了し続けています。ラファエロの傑作として今もなお美術史の中で重要な位置を占めるこの肖像画は、当時の文化や価値観を知る手掛かりとしても貴重な作品です。

参考文献

• - 黒江光彦監修『西洋絵画作品名辞典』、三省堂、1994年。
• - 池上英洋『もっと知りたいラファエッロ　生涯と作品』、東京美術、2009年。

このように『マッダレーナ・ドーニの肖像』は、ただの肖像画以上の深いテーマ性を持った作品であり、歴史的背景や神話と結びつきながら、私たちに多くのことを語りかけてきます。

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