マツダ・MX-R01

マツダ・MX-R01：ロータリーからレシプロへ、そして伝説へ

1992年、マツダはスポーツカー世界選手権（SWC）に、トム・ウォーキンショー・レーシング（TWR）と共同開発したプロトタイプレーシングカー、MX-R01で参戦しました。これは、それまでマツダの象徴であったロータリーエンジンではなく、レシプロエンジンを搭載したマシンだったという点で大きな話題となりました。本稿では、MX-R01の開発背景、その性能、レースでの戦績、そしてその後について詳細に解説します。

開発の背景：レシプロエンジンへの転換

1991年、SWCのレギュレーションが変更され、3.5リットル自然吸気エンジンのみが認められるようになりました。長年ロータリーエンジンでレース活動を展開してきたマツダにとって、これは大きな転換期でした。ロータリーエンジンの使用が不可能になったため、新たな戦略として、他社製のエンジンとシャーシをベースに、自社技術による改良を加え、MX-R01の開発に踏み切りました。

エンジンはジャッド・GVをベースに改良を加えた「マツダ・MV10」、シャーシはTWRのジャガー・XJR-14をベースに製作されました。外観はXJR-14と酷似しており、一見すると見分けるのが困難なほどでした。しかし、エンジンマウント部などの変更は、マツダ独自の技術が投入されています。

このレシプロエンジンへの転換は、当時としては異例な決断でした。マツダが長年培ってきたロータリーエンジンの技術を捨てるのかという疑問も提起されましたが、これは、1990年にFISAマニュファクチャラー委員会議長だったマックス・モズレーが、1992年のSWCに3.5リットルマシンを走らせるという条件を提示したことに起因すると言われています。

シャーシとエンジン：XJR-14とマツダ・MV10

MX-R01のシャーシは、前述の通りジャガー・XJR-14をベースとしていました。TWRの手によって製作され、巨大なリアウィングなど、外観上の特徴はXJR-14とほぼ同一でした。ドライバーの乗り降りの方法もXJR-14と同じく、キャビン横の樹脂製パネルを外す方式でした。

一方、エンジンは「マツダ・MV10」と名付けられた、ジャッド・GVをベースにしたエンジンでした。ジャッド・GVは元々はF1用エンジンであり、耐久性向上を目指した改良が施されました。ル・マン24時間レース出場時の最高出力は620PS/10,800rpmに達し、レース後に行われた分解検査でも、全く問題のない状態であることが確認されています。このエンジンはプライベートユーザーへの販売も視野に入れて開発が進められていましたが、マツダのSWC撤退により、その計画は頓挫しました。

レース戦績：SWCとJSPCでの戦い

マツダは1992年、SWCと全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権（JSPC）の両方にMX-R01を投入しました。SWCではスプリント仕様、JSPCではル・マン仕様のマシンがそれぞれ使用されました。

SWCでは、開幕戦モンツァでメカニカルトラブルに見舞われリタイアするなど、序盤は苦戦しましたが、その後は安定した走りを見せ、ル・マン24時間レースでは4位入賞を果たすなど、チームランキング3位という好成績を残しました。

JSPCでは、Cクラス唯一のマシンとして参戦しました。開幕戦鈴鹿では、オープニングラップでスピンするなど苦戦しましたが、テクニカルコースでは善戦する場面も見られました。しかし、トヨタや日産といったライバル勢に勝ち越すには至りませんでした。

MX-R01のその後：伝説のマシン

SWCとJSPCからの撤退後、MX-R01は数台の車両がマツダ関連施設で展示されるなどしていましたが、その後はほとんどその姿を見ることはなくなりました。現在、確認されているのはMAZDA USAが所有する1台と、マツダR&Dセンター横浜に保管されている1台です。2023年11月には、マツダR&Dセンター横浜の車両が「MAZDA FAN FESTA 2023 IN OKAYAMA」で展示され、再び注目を集めました。

MX-R01は、ロータリーエンジンからレシプロエンジンへの転換、そしてTWRとの共同開発など、数々のドラマチックな出来事を経て誕生した、伝説のマシンと言えるでしょう。その存在は、マツダのレーシング史において重要な位置を占めています。

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