マティアス・ゲルツァー

マティアス・ゲルツァー：古代ローマ史研究に革新をもたらした碩学

マティアス・ゲルツァー（Matthias Gelzer, 1886年12月19日 - 1974年7月23日）は、20世紀を代表するドイツの古代史家であり、特に共和政ローマ史研究において重要な貢献をしました。彼の研究は、従来の解釈を覆し、新たな視点を提供することで、その後の研究に大きな影響を与えました。

生涯と学問の道

ゲルツァーは、スイスのバーゼル＝ラント準州リースタルで、プロテスタント牧師の家庭に生まれました。父方の祖父や伯父、母方の親族にも歴史学者がおり、学問的な環境で育ちました。バーゼル大学で古典文献学を学んだ後、ライプツィヒ大学で古代史を専攻し、ウルリッヒ・ウィルケンの指導を受けました。1909年には、ビザンツ帝国のエジプト統治に関する研究で博士号を取得しました。

フライブルク大学へ移ったゲルツァーは、キケロの研究を通じて、共和政ローマにおけるノビレス（支配層）の支配構造、いわゆる「ノビリタス支配」におけるパトロネジ（庇護関係）の重要性に着目しました。1912年に発表した教授資格論文『共和政ローマのノビリタス』は、テオドール・モムゼン以来の共和政ローマ像を刷新するものとして高く評価されました。

第一次世界大戦に従軍後、グライフスヴァルト大学、ストラスブール大学を経て、フランクフルト大学の教授に就任。ここでは、カエサルの伝記を著し、彼をローマ史の中心人物として捉える新たな視点を提示しました。また、大学の学長も務め、第三帝国の干渉から大学を守るために尽力しました。

第二次世界大戦後も、フランクフルト大学の復興に尽力し、1955年の引退後も後進の指導にあたりました。古代史の専門誌『Gnomon』の編集委員も長年務め、古代史研究の発展に貢献しました。

ノビリタス支配とパトロネジ論

ゲルツァーの最も重要な業績は、共和政ローマのノビリタス支配に関する研究です。彼は、ノビレスがパトロネジという庇護関係を通じて、政治的・社会的な権力を維持していたことを明らかにしました。彼のパトロネジ論は、従来のローマ史研究における階級闘争史観とは異なる視点を提供し、共和政ローマの支配構造をより複雑かつ多角的に理解することを可能にしました。

しかし、ゲルツァーの研究には批判的な意見もあります。ファーガス・ミラーは、ゲルツァーが裁判弁論を重視するあまり立法を軽視している点、また、利用している出典を遙かに超えた結論を出している点を指摘し、読者に誤解を与える可能性があると批判しています。

人柄と多才な才能

ゲルツァーは、敬虔なキリスト教徒であり、晩年までその明晰さを保ちました。ドイツ文学、フランス文学にも精通し、優れたチェロ奏者でもあったといいます。授業は厳格で徹底した原典読解を重視し、学生からの評価は高かったそうです。多くの書評や一般向けの講演も行い、幅広い知識と教養を持っていました。

著作

ゲルツァーは数多くの著作を残していますが、代表的なものとしては以下のものがあります。

『共和政ローマのノビリタス』（1912）
『カエサル、政治家そして元首』（1921）
『ウティカのカト』（1934）
『ポンペイウス』（1949）
* 『キケロ』（1969）

これらの著作は、現在でも古代ローマ史研究の重要な参考文献として広く読まれています。

結論

マティアス・ゲルツァーは、その卓越した学識と独創的な視点によって、古代ローマ史研究に多大な貢献をしました。彼の研究は、今日においてもなお、私たちに共和政ローマの政治と社会を理解するための貴重な手がかりを与えてくれます。

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