マデリーン・ドリング

イギリスの作曲家、女優。マデリーン・ワインフリッド・イザベル・ドリング（Madeleine Winefride Isabelle Dring）は、1923年 9月7日に生まれ、1977年 3月26日に亡くなりました。彼女は、クラシック音楽の範疇に留まらない、親しみやすく軽妙な音楽スタイルで知られています。

生涯

マデリーン・ドリングは、音楽に深く関わる家庭に生まれ、幼い頃から音楽と演劇の両分野で並外れた才能を示しました。その才能は早期に認められ、9歳という若さでロンドンの権威ある教育機関、王立音楽大学のジュニア部門に入学し、体系的な音楽学習を開始しました。演劇においても特筆すべき才能を持っており、少年期には実際に児童劇団の舞台に立っていましたが、最終的にはヴァイオリンの奨学金を得て、音楽の道を本格的に進むことを選択しました。

王立音楽大学のシニア課程に進んだ後も音楽の探求を続け、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ、ハーバート・ハウエルズ、ゴードン・ジェイコブといった、当時の著名な作曲家たちに師事し、作曲の技術を磨きました。同時に、彼女はパントマイムや演劇の勉強も継続し、音楽と舞台芸術への情熱を両立させました。この二つの分野への深い愛着は、彼女の創作活動に大きな影響を与えています。多くの作品が演劇や舞台のために書かれており、彼女自身が舞台上で歌ったり、ピアノを演奏したりすることも珍しくありませんでした。

私生活においては、1947年にオーボエ奏者のロジャー・ロードと結婚しました。夫のためにいくつかのオーボエ独奏曲を作曲するなど、公私のパートナーシップは創作にも結びつきました。1950年には一人息子が誕生し、家庭と創作活動を両立させる日々を送りました。

マデリーン・ドリングは、1977年に脳卒中により、53歳という比較的短い生涯を閉じました。しかし、彼女の音楽は没後も評価され続けており、2003年にはRo Hancock-Childによって、彼女のノートからのイラストも含む伝記『Madeleine Dring: Her Music, Her Life』が出版され、その生涯と作品が広く紹介されました。

音楽スタイル

ドリングの音楽スタイルは、師であるゴードン・ジェイコブやレイフ・ヴォーン・ウィリアムズの影響を受けつつも、独自の個性を確立しています。彼女の音楽は、総じて軽やかで気取らず、聴きやすい旋律とリズムが特徴です。フランスの作曲家フランシス・プーランクの独特な表現やリズミカルな活気に感銘を受けており、その影響は彼女の作品の随所に現れています。また、彼女の楽曲におけるハーモニーは、しばしばジャズの語法を取り入れており、その洗練された響きは、アメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンの作品と比べられることもあります。自身が優れた歌い手であったことから、声楽作品、特に歌曲を数多く作曲しました。絶対音感を持っていたため、旋律線を作る際に歌いやすさを特別に考慮することは少なかったと言われています。

作品傾向と主な作品

家庭での役割との兼ね合いからか、マデリーン・ドリングの作品の多くは、短い形式の楽曲です。ピアノ独奏曲、様々な編成の室内楽曲、そして教育的な目的で書かれた小品などを多数手掛けています。しかし、大規模な作品が全くないわけではなく、1幕オペラ『Cupboard Love』や、BBCテレビのために作曲した舞踏劇『The Fair Queen of Wu』など、重要な舞台作品も創作しています。彼女の作品は作曲年が不明なものが多いことでも知られており、作品研究においてはアリスティア・フィッシャーのような研究者の論文が重要な情報源となっています。

彼女の多岐にわたる作品の中から、いくつかの代表的なものを挙げます。

器楽作品および声楽作品:
イタリア舞曲 (Italian Dance) (1960) - オーボエとピアノ
幻想ソナタ (Fantasy Sonata) (1938) - ピアノとクラリネット
リリバレロによる3つの幻想的変奏曲 (3 Fantastic Variations on Lilliburlero) (1948) - 2台ピアノ
カリビアン・ダンス（テンポ・トバゴ） (Caribbean Dance (Tempo Tobago)) (1959) - ピアノ連弾または独奏
献呈 (Dedications) (1967) - 独唱、ロバート・ヘリックの詩による5つの歌曲
フルート、オーボエ、ピアノのための三重奏曲 (Trio for Flute, Oboe, and Piano) (1968)
5つのベッチェマン歌曲 (5 Betjeman Songs) (1976) - 独唱

舞台作品およびテレビ作品:
皇帝とナイチンゲール (The Emperor and the Nightingale) (1941) - 付随音楽
ウーの美しき女王 (The Fair Queen of Wu) (1951) - BBCテレビ、舞踏劇
シュー・ストリングの調べ (Airs on a Shoestring) (1953) - ミュージカル・レビュー
物置の恋 (Cupboard Love) - 1幕オペラ
本当のお姫様 (The Real Princess) (1971) - バレエ

マデリーン・ドリングは、クラシック音楽の伝統を踏まえつつも、ジャズなどの要素を取り入れたユニークで親しみやすい音楽を生み出し、作曲家そしてパフォーマーとして多方面で活躍しました。その作品は、現在も多くの演奏家や聴衆に愛され続けています。

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