マノン・レスコー (オベール)

オベール作曲 オペラ・コミック『マノン・レスコー』

ダニエル＝フランソワ＝エスプリ・オベール作曲の『マノン・レスコー』（Manon Lescaut）は、1856年2月23日にパリのオペラ＝コミック座で初演された全3幕のオペラ・コミックです。アベ・プレヴォーの小説『マノン・レスコー』を原作とし、ウジェーヌ・スクリーブがフランス語でリブレットを執筆しました。

概要

オベールは、1828年にグランド・オペラの幕開けとなった『ポルティチの娘』で成功を収めましたが、その後はより小規模なオペラ・コミックへと移行しました。代表作である『フラ・ディアヴォロ』（1830年）は、19世紀フランスのオペラ・コミックの典型として、オペラ＝コミック座に新風を吹き込みました。

小説『マノン・レスコー』を原作とするオペラは、他にジュール・マスネの『マノン』（1884年）やジャコモ・プッチーニの『マノン・レスコー』（1893年）があります。

筋立ての特徴

スクリーブ版の特徴は、マノンが原作よりもデ・グリューへの愛に忠実である点です。贅沢な生活に誘惑されながらも、一途な愛を貫くマノンの姿が強調されています。これは、デ・グリューが拉致される場面や、神学校でマノンが彼を誘惑する場面などが削除されたことによって、より際立っています。また、マノンのパトロンとなる貴族は一人に限定され、マノンの女友達であるマルグリートが登場し、女性同士の友情が描かれています。マルグリートの婚約者ジェルヴェは、マノンとデ・グリューの仲を応援する人物として描かれています。

スクリーブは、19世紀の時代を生き生きと描写しつつ、フランス第二帝政期の植民地主義的な野心を織り交ぜることで、原作の18世紀における悲惨な状況を回避しています。不名誉な行為を巧妙に包み隠し、見せかけの天真爛漫さを演じることで、聴衆と批評家から好意的に迎えられました。オベールのヒロインは、何よりも愛くるしさが際立っています。

これらの設定は、当時のオペラ・コミック座の状況に合わせたものです。オペラ＝コミック座では、フランス語で歌われ、幕間に台詞が入るオペラ・コミック様式の作品が上演され、市民層に親しまれていました。しかし、内容の硬直化を懸念した関係者は、悲劇的な結末を避けつつ、新たな趣向を取り入れようとしました。その結果、ヒロインの死という不文律を破る場面が、美しい名場面として演出されました。

この後、オペラ・コミック座では、ビゼーの『カルメン』（1875年）、レオ・ドリーブの『ラクメ』（1883年）、クロード・ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』（1902年）といった悲劇的な結末を迎える作品が上演されるようになりました。

音楽の特徴

本作の音楽は、フランスの叙情的な暖かさを備えたロッシーニ風の音楽と評されます。マノン役には高度なアクロバティックな技術が求められ、聴きどころとなっています。一方、デ・グリュー役は出番が少なく、アリアもありません。オベールは、1840年代以降の作品で半音階や変化和音を多用し、和声の豊かさを増しています。バリトンの役柄も幅が広がり、エリニー侯爵役はジャン＝バティスト・フォルが初演しました。古典派の伝統を受け継ぎながらも、ロマン的な旋律美とリズムの規則性を融合させています。オペレッタ全盛の時代にあって、オベールとアダンのオペラ・コミックは、語りの部分を排除し、厳粛さを増す傾向にありました。

蘇演

初演後、しばらく忘れられていましたが、1974年にマディ・メスプレ主演で録音され、1990年にはオペラ・コミック座で上演されました。2002年にはウェックスフォード・オペラ・フェスティバルで、2016年にはリエージュのワロニー王立歌劇場で上演されています。

登場人物

主要な登場人物は、マノン・レスコー、デ・グリュー、レスコー、エリニー侯爵、マルグリート、ジェルヴェです。

楽器編成

フルート2（2番はピッコロ持ち替え）、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、バス・ドラム、小太鼓、シンバル、トライアングル、弦楽五部で構成されています。

上演時間

全3幕で約2時間です。

あらすじ

物語は、18世紀末のパリとアメリカのルイジアナを舞台に展開されます。

第1幕 では、マノンをものにしようとするエリニー侯爵が登場し、レスコーに仲介を依頼します。マノンは、デ・グリューとの愛を深めますが、レストランでの騒動から、デ・グリューは兵営へ、マノンは侯爵の愛人となることを余儀なくされます。

第2幕 では、侯爵の家でマノンは絶望し、デ・グリューが脱走してきます。二人は逃亡を試みますが、侯爵に見つかり、デ・グリューは逮捕され、マノンも連行されます。

第3幕 では、マルグリートとジェルヴェがアメリカに移住し、結婚式を挙げます。マノンは奴隷として連れてこられ、デ・グリューと再会します。マルグリートの助けで二人は逃亡しますが、ルイジアナの荒野でマノンは力尽き、デ・グリューの腕の中で息絶えます。

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